権威の象徴 天まで届くほどの高いビル

それは思い上がった人間達が天の神に届くほどの塔を作ろうとして

神にせられたという 神話のバベルの塔のよう

 

09:Building Of Shinra Company

 

その日、神羅カンパニー付近の私設研究所から実験動物<モルモット>が一匹逃げ出した。

研究所に一人残っていた宿直の研究員を殺めて。

現場には硝子の破片や血や、何かの液体が飛び散り、無惨な状態だった。

そのまだ片付けられていない凄惨な現場で、宝条博士と部下の研究員がひそひそと話し合っている。

「…どこへ逃げたかはつかめていないのかね?」

若い研究員は背筋を正して答えた。

「はい。研究員を殺害し、いずこかへ逃走したものと思われます」

宝条はクックッと陰気な笑みを漏らすと、その実験動物<モルモット>の入っていたリアクターに手をついた。

「全く、やんちゃな実験体だ…だがあれは、ヒトの目に触れてはいけないもの…この研究所のトップシークレットだ。早急に調査・回収してくれたまえ」

「はい」

研究員は頷くと足早に去っていった。薄暗い研究所に一人残った宝条は、また静かに陰気な笑みを零した。

 

 

場所は変わって神羅ビル。

「よう、ハル。今日は夜勤か?」

階段の踊り場のベンチに腰掛けて、食事を取っている銀髪の女性にザックスは声をかけた。

買ったばかりの缶コーヒーを開けると、彼は女性の隣に腰掛けた。

ハルと呼ばれたオッドアイの女性はクロワッサンを千切りながら答えた。

「そういうわけじゃないけど、残業。デスクワークは面倒ね。ザックスは夜勤?」

ザックスは一口、コーヒーを啜ると頷いた。

「そ。今日は夜の見回り。何かあったら俺が駆けつけるぜ」

「あ、そ。でもよっぽどの事がない限り大丈夫よ。これでも元ソルジャー・2NDだもの」

ぐっと親指を立てるザックスにハルは髪をすいて優雅に笑った。

その2人に小さな足音が近づく。ふと気がつくと、2人の前に一人の少年が立っていた。

銀髪に蒼眼、8つか9つくらいのその少年は、2人の知っているある男に良く似た面差しの少年だった。

何でこんなところに子供がいるのだろうと訝しく思いながらもザックスは少年に問うた。

「お前…こんなところで何してるんだ?」

答える代わりに少年の腹が鳴る。

別段それを恥ずかしがるでもなく、少年は表情を変えずにただ立っていた。

その少年の様子を見て、ハルは自分のバッグからまだ開けてないパンの袋を一つ取り出した。

「…食べる?」

その言葉に少年はこくりと頷いた。

肩出しの黒いタートルセーターに、二の腕の半ばまで届くような長い同色のアームウォーマーをつけたその少年は差し出されたパンを受け取って食べ始めた。

チョコレートのついたそのパンをもぐもぐと食べるその少年を見て、ザックスは何か違和感を覚えた。

『何か、変なガキだな…スラムの物乞いのガキか?こんなとこまでどうやってきたんだか…」

少年はパンの最後のひとかけらを口に押し込むと、唇にその指を当てたまま呟いた。

「…優しい…」

ザックスには聞き取れたがハルには聞こえていなかったようだ。

「美味しかった?」

「あ り が と」

にこっと微笑するハルに少年は一言だけいい、そのままぷいっと背を向けて、少年は廊下の向こうに駆けていった。

「何だったんだ、あのガキ?」

ザックスは軽く溜息をついた。

「可愛い…っていうか、綺麗なコだったね。お腹すいていたのかな?」

ザックスはハルの笑顔を見て喉まで出かかった言葉を引っ込めた。

 

あいつ、セフィロスに似てたよな、という言葉を。

 

廊下の途中で少年はふと振り返った。そして、小さな声で呟く。

「…ハル」

何度かその名を反芻すると少年はふっと姿を消した。

 

 

時は経ち、しとしとと雨が降り出した。

ハルは資料室でパソコンや書類と向かい合っていた。

「ふぅ…」

ハルは椅子を引き、背もたれに寄りかかった。

長時間の作業で疲れた目を軽く擦り一息入れようと煙草のケースを取り出して、禁煙しようとしていた事を思い出す。

代わりにキャンディーでも舐めようかと思っていた時、彼女はふと誰かの気配に気づいた。

「誰?」

そう言えば今日昼間のミーティングで、宝条博士の私設ラボから実験体が逃げ出したから警戒するようにと聞いていた。

ちょうどいい機会だ、捕らえてやると思いハルが構えると本棚の影から先ほどの少年が姿を現した。

肩まで伸びた銀髪に整った顔、ガラス玉みたいにどこか虚ろな輝きを持つ蒼い瞳のその少年はハルの側に寄ってきた。

「おねえちゃん」

少年の姿に、ハルの緊張が解ける。

「なあに?」

ハルは自然と優しい声になっていた。心のどこかでこんな所にこどもがいる事を訝しく思いながら。

それと、ハルは彼女の肩を掴む少年の袖から覗く手が、痣のように変色しているのに気づいた。

少年はしばらく黙っていたが、顔を上げるとハルに虚ろな目を向けた。

「…僕…母さんいないんだ。だから僕、おねえちゃんに母さんになって欲しいんだ。ねえ良いでしょ?」

「まあ…」

どうしたものかとハルが返答に困っていると、パソコンの画面にALARTが表示された。

『宝条博士のラボから逃走した実験体が神羅ビル付近に潜伏していると思われる。全ソルジャーに警戒・およびその補足を要求する』

社内ネットワークによる緊急配備の要請だ。その画面表示を見た少年の顔色がさっと変わった。

次の瞬間、少年はハルの手首を強引に掴んで引いた。その力たるや、ただの少年とは思えないほどの腕力だった。

「痛っ…」

ハルは一瞬眉を寄せた。少年はそれを気にもせずに言い放つ。

「迷ってる時間はないんだ…君は黙って、僕についてくればいいんだよ!」

少年はハルの手を掴んで駆け出した。女性とはいえ元ソルジャーのハルが、手を振り解こうとしてもびくともしない。

それどころか下手に解こうとすればこちらの腕が折れてしまいそうだ。

ハルは自由な片手を使って携帯電話を取り出すと、ザックスにコールをかけようとする。

けれど少年に手を叩かれ携帯は床に投げ出された。

「今の君は人質。僕の盾。余計な事はしないで…ねえ、さっきの言葉本気にしたわけ?母親が欲しいって?…思ったより頭弱いね、君」

少年はくすりと笑う。

『ザックス…助けて…!』

2人が走り去った廊下で、床に投げ出された携帯のコール音が鳴り続けていた。

 

 

ザックスは出ても物言わぬ携帯電話に胸騒ぎを覚えていた。

確か、30階あたりの資料室で仕事をするとか言っていた。一応、様子を見に行ってみようか。

そう思った矢先に爆発音が轟き、床が僅かに揺れ動いた。

「なんだ!?」

同じフロアで仕事をしていた一般の職員達も何事かと動揺している。

すると、手に持っていた携帯が再び鳴った。

「ザックスか。…私だ。ルーファウスだ」

「何だよ、若様。俺忙しいんだ。あんたと話してる暇ないっつーの」

ザックスはつっけんどんに返して切ろうとした。

「待て、お前の用事がどんなに重要かは知らん。…が、今から話す事は特A級の任務、優先度は最高位だ。

…数名のソルジャー及び兵士が、脱走した例の実験体と交戦…死傷。すぐに援護に向かえ。

グリーンウッドの命が惜しかったらすぐにだ」

「…おい、ハルの命が惜しいってどういうことだ?」

ザックスは訝しげにたずねた。

「相手はグリーンウッドを人質に取っている。奴は32階で交戦後、上へ向かっている。私は25階で合流するからな。わかったらさっさと来い」

「言われねーでもすぐ行くぜ」

ザックスは弾かれたように駆けだした。

 

 

 

「で、どういうことなんだよ」

エレベーターの中、ザックスはルーファウスに状況説明を求めた。

「これは機密事項だが…宝条博士が私設ラボで作ったクローンが逃走したんだ。グリーンウッドが何故人質に取られているのかは不明だ。

奴の目的が何なのかは知らんが、とにかく見つけ次第捕獲…または始末しなくてはならない。何故か奴は上へ向かっている。先回りして何とかしようということだ」

ルーファウスは手短に説明した。彼の愛用の銃がぎらりと腰元で光る。

ザックスは肩をわざとらしく竦めると軽く溜息をついた。

「で、さ…あんた副社長の癖にこういう危ない事に首突っ込んでいいわけ?」

ルーファウスはそれを聞くと前髪をかきあげた。

「他人に任せておいて、人質が邪魔だとか言われてグリーンウッドを殺されては困るからな」

「は〜…あんたハルに惚れてるんだ、若様?」

「それは想像に任せるとしよう」

そんな事言って誤魔化してもばれてるって、とザックスが言いかけたその瞬間、警報がけたたましく鳴った。

「なんだ!?」

そのままエレベーターは手近な階に緊急停止する。

「エレベーターの電気系統の異常のようだな。ひとまず出ないと、閉じ込められるぞ」

ルーファウスの促しで2人が脱出するとズゥンという音が響いた。

ワイヤーを切られたエレベーターがどこかの階の非常シャッターに引っかかって止まったのだ。

ザックスはガラス張りのエレベーターホールを眺めながら呟いた。

「やれやれ、思った以上にめんどくせー相手みてーだな」

ルーファウスは白のダブルスーツのポケットに手を突っ込んだまま頷く。

「だろうな。何せ相手はセフィロスのクローンだ」

その言葉にザックスが過剰に反応する。

一瞬、ザックスの脳裏をパンにかぶりつく無表情な少年が掠めた。

「セフィロスの…!?」

ザックスは絶句する。

「そうだ。…奴には言うなよ。幸い任務で不在だからな。この事は後々、関わった人物全て口外無用とする」

「ああ」

ザックスは頷いた。何となく、彼の耳に入れてはいけない気がした。

短い沈黙の後、2人は上の階に続く階段へと駆け出した。

 


 

TO BE CONTINUED…

03/12/04

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