上っても上っても 続く階段 神の許へと続く道

でも誰一人 天空にはたどり着けやしない

そのうち怒った神様が 雷(いかづち)で塔を崩しちまうさ

 

深い僕らに 神の鉄槌が下る

 

09:Building Of Shinra Company

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」

神羅ビルの階段に2つの足音が響く。

「ちょっと、待て…ザックス」

とある踊り場でルーファウスがついに音をあげた。

肩で息をする副社長を見るのなど初めてだ。

「少し息を、整えてから…」

「…あ、ああ、そうだな…」

ザックスはわき腹を抑えて顔を顰めた。

いくらなんでも一気に15階駆け上がったのはちょっと無茶だった。

日ごろソルジャーとして訓練を積んでいるザックスにもきつかったのだからあまり肉体派ではないルーファウスにはかなりの負担だっただろう。

プライドの高い男だから顔には出さないが彼のプライドと体力のぎりぎりの妥協点で発言したのだと容易に推測できる。

額の汗を拭いながら壁にもたれて息を整えるルーファウスを横目で見ながら、ザックスは階段に腰を下ろし髪をかきあげた。

「いったい後何階であいつらに追いつけんだよ…もうそろそろ限界だっつーの。クローン君と戦う体力残らねーぞ」

「……」

ルーファウスは返事もせずに静かに息を整えていた。

2・3度深呼吸をするとルーファウスは上へと続く階段に足をかけた。

「…行くぞ」

「もういいのか?」

ルーファウスはもう無駄口を一言でも叩きたくないのか、ザックスの問いに横目でちらりとザックスを見やるとまた駆け上がり始めた。

ザックスも黙って後を追う。

階段を駆け上がったところで思わぬ攻撃を受けた。

「な!?」

弾丸がザックスを掠めて、後ろの階段に無数の穴を開ける。

銀の装甲のガードロボットが2人に照準を合わせた。

とっさにザックスは飛び上がってその装甲に蹴りを食らわす。

吹っ飛ばされたロボットにルーファウスは銃の照準を合わせ引き金を引いた。

ルーファウスの援護射撃を受けつつ、ザックスはバスターソードで切りかかる。

ものの数秒で、ガードロボットは鉄クズと化した。

「これは…どういうことだ!?」

ザックスは装甲を踏みつけるとルーファウスを見た。

ルーファウスはスーツについた埃を払いながら言う。

「これは推測だが…恐らくマザーコンピュータを乗っ取られたのだ。神羅カンパニーのメイン・コンピュータをな。

だとしたら我々はもはやこのビルのセキュリティにとっては侵入者でしかないのだな」

「セキュリティシステムが敵かよ…ったく、マジで面倒な相手だな。…ハルは無事なんだろうな…」

ルーファウスは答えずにまた階段を上り始めた。

ザックスはかぶりを振ると、また同じように後に続いた。

 

 

 

「うわぁぁあ!」

「ぐわっ!」

少年の乱射する銃が上層階の警備に当たっていた兵士達をなぎ倒していく。

弾倉が空になるとまた血溜まりの中から銃を拾い、少年の銃弾はまったく尽きない。

手首を拘束されて、何も出来ずに歯噛みするハルに少年は鋭い視線を送った。

ぐいっと鎖を引っ張られ、ハルは引きずられるように連れて行かれる。

はじめに引っ張られた時に足を痛めたようで、足を突っ張って抵抗する事も出来ない。

少年はふと一振りのサーベルを倒れた兵士の腰に見つけるとすらりとそれを抜いた。

その姿はハルに、銀髪の英雄を思い起こさせる。

「へぇ…これはいいや」

少年は刃にぺろりと舌を滑らせると口角を吊り上げてクッと笑った。

ハルが気づいた時に長袖から覗く手だけにあった痣は、いつの間にかアームウォーマーとセーターの間に覗く小さな肩まで染めていた。

 

 

 

「サンダラ!」

ルーファウスが魔法を唱えると一挙に空気中にプラズマが飛び散る。

銀の装甲がどろりと溶け、機械兵は動かなくなった。

その背後から襲ってきたまた別の機械兵を今度はザックスが一刀両断する。

「階段を一フロア上る度にこいつらがいるとさすがに…相手じゃねーけど数が多すぎるぜ」

ザックスは拳で汗を拭う。刹那、上の階で再び爆発音が起こった。

ザックスとルーファウスは一瞬顔を見合わせたが、次の瞬間どちらともなくはじかれたように駆け出した。

 

 

 

部屋が紅蓮の炎に包まれる。

「ははっ、燃えちゃえ」

少年は自らの放った焔が部屋を覆っていくのを見て満足そうに笑った。

何人か、倒れている兵士が焔に包まれていく。

ハルはただ傍らで座り込んでいた。

「さあ、行くよ」

少年の促しにもハルは動かなかった。少年は刃(やいば)をちらつかせる。

「行かないと…」

「殺すよ、って?」

ハルが代わりに少年の言うはずだった言葉を紡ぐ。

「好きにすれば?私は貴方についていく義務はないもの。

私が盾になっているせいで皆が貴方に手を出せないんだったら私がここで死んだ方がいいに決まってる」

「なっ…!」

少年の表情に怒りと困惑が混ざる。

「い、いいよ。じゃあ望みどおりここが君の墓場だ」

 

 

 

「開かない!」

ルーファウスが扉をこじ開けようとするが、触れると内からの炎で熱された金属の扉は容赦なくルーファウスの皮膚を焼く。

「っ!」

反射的に手を引っ込め、ルーファウスは歯噛みした。

さっきの爆発はこの部屋からだった、ということは彼女に間違いなく近づいている…なのに。

階段はこの扉の向こうだ。それ以外に進む手段はない。万事休すか―――

「どいてろよ、若様」

ルーファウスが振り向くとザックスが剣を抜いた。

ルーファウスが頷いて避けるとザックスは息を大きく吸った。

次の瞬間、バスターソードが一閃した。

 

 

 

ハルに刃を向けたまま少年の手は震えていた。

「…っ…」

明らかに少年は躊躇していた。

そこへ扉が崩され、2人の青年が姿を現す。

「ハル!」

「!」

途端、少年の表情が変わった。きっと2人の青年を睨みつけるとハルに向けていた刃を2人に見せるように構えなおし、叫ぶ。

「君らには渡さないよ!」

ハルの頬にサーベルの切っ先が触れ、つうと赤い線を引く。

傷口に血の雫が膨れ上がり、頬を伝った。

「彼女の命が惜しかったらついてこないで!」

「くっ…」

ザックスは躊躇した。少年はハルを本当に殺すかもしれない。

青年2人の足が止まったのを確認すると、少年はハルをぐいっと引っ張った。

「来て!早く!」

そのまま焔の向こうに消えていく。

反射的にザックスが足を踏み出した瞬間炎が勢いを増した。

「うわっ!」

彼女をザックスに渡すまいとする少年の意志を表すかのように炎がうねりを上げる。

一瞬ひるんだが、ザックスはもう一度焔の中に飛び込んだ。

 

 

 

少年はハルをぐいぐいと引っ張って歩く。

ハルは今度は抵抗しなかった。先ほどの少年の様子が気になってのことだった。

少年がぽつりと口を開いた。

「…僕に母さんも父さんもいないのは本当だよ。生まれたときからいつも一人ぼっち…永い時を水槽の中で過ごしてた。

僕には名前もない、友達もいない、家族もいない…」

「……」

ハルは瞳を曇らせて少年を見た。片足を庇いながら、少年に黙ってついていく。

少年の痣はいつの間にか首もとまで達していた。

 

 

「宝条博士!」

若い研究員が足早に駆け込んでくる。

部屋は先刻彼が出て行った時のままで、惨劇の爪あとは生々しい。

「奴は神羅ビル内に…」

「…もういい」

宝条は研究員の言葉を遮り呟いた。

「…は?」

聞き返した研究員に宝条は言った。

「奴の所在などもはやどうでもいい…培養液を出て既に6時間は経った。今の段階では培養液を出て長くは生きられまい。

万一の時のためにセフィロスの代用品があればさぞかし便利だと思ったが…今一度研究と改良が必要だな」

「では…」

怪訝そうな顔で口を開いた研究員に宝条は背を向けた。

「奴の事などもういい。放っておいてもじき死ぬだろう」

 

 

 

少年はハルの手を引いたままなお、階段を上り続ける。

「僕は…僕、優しい母さんが欲しかったんだ。僕のほうを見てくれて、僕の話を聞いてくれて、僕に優しくしてくれる母さんが…」

不意に少年ががくんと膝をついた。

「!?どうし…」

ハルは声をかけようとして少年の異変に気がついた。

痣はもう首もとまで上ってきている。これがいったい何の痣なのか…ハルの知識を以ってしてもわからなかった。

ただ一つ言える事はこの痣は「よくない」モノだということだった。

「僕、本当に母さんが欲しかったんだ。本当だよ。いつもひとりぼっちだったから優しい母さんが…」

少年はうわごとのように呟いていた。

痣はもう顔の半分を覆っていた。

ハルは少年の側に座るとその虚ろな瞳を覗き込んで囁いた。

「大丈夫、私、君の母さんになるよ。君は一人じゃないよ…」

 

 

 

ザックスとルーファウスがようやくハルのもとへ駆けつけた時、少年はハルの膝に頭を乗せて眠っていた。

正確には少年の小さな体は息をしていなかったのだけれど。

「ハル、怪我ないか?…どっか痛いとか…」

ハルは黙って小さく首を振った。そしてルーファウスとザックスに目をやる。

機械兵と戦ったり階段を駆け上ったり、炎の中に飛び込んだりした2人の身体は傷だらけだった。

「ありがとう、2人とも…でも、私の身体なんかよりこの子の心の方がきっと何倍も痛かったと思う…」

虚勢を張りながらも、彼の心は悲鳴を上げていた。

ザックスに枷を解いてもらった手で、ハルはしばらく白く眠っている少年の頭をそっと撫でていた―――母親が子供をなだめるように。

死せる少年の閉じた瞼から透明な雫がつうと流れた。

 

 

長い夜が明けた。ザックスは神羅ビルの入り口に立つと咥えていた煙草に火をつけ、紫煙を吐き出す。

夜勤があけた翌日は休みがもらえることになっているが、ザックスは普段の夜勤明けのような浮ついた気分になれなかった。

自分勝手な科学者の手によって生み出された不遇な少年。ああいう後味の悪い仕事には出来れば2度と関わりたくない。

ザックスは軽く舌うちすると、長い煙草を踏み消した。

 


上下編 小生意気な少年セフィロスクローンとルーファウスと共闘するザックスと
神羅ビルの階段を駆け上がりつつ繰り広げられるバトルとを詰め込みたくて
ザックスの発言(「あんたハルに惚れてんだ?」)の真偽はご想像にお任せいたします

03/12/04

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