10:A Rain

 

「…雨は嫌いだ」

窓辺に腰掛け、クラウドは呟いた。

「あら、どうして?」

ティファは首を傾げた。

外ではしとしとと雨が降っている。

雨が続くとニブル山の道は崩れやすいから、と言われクラウド達一行はニブルヘイムに足止めを食らっている。

村の宿ではベッドが足りないために、クラウド達は埃っぽい神羅屋敷に留まっていた。

エアリスはガスト博士の残した研究資料が見たいと言い新しく仲間にしたヴィンセントと、ナナキを用心棒に地下に降りていった。

バレットは銃のメンテナンスに余念が無い。強力な敵が潜むかもしれない山越えに備えての事だ。

ユフィはさっきから屋敷のあちこちをひっくり返してマテリアを探している。

クラウドはティファとぼんやり外を眺めていた。全く変わらない形で再建された故郷の町並みを見つめながら。

「…嫌いだ」

クラウドは虚ろに呟いた。

ティファはさっきの自分の言葉は届かなかったのだと思い、もう一度問い直した。

「どうして、雨が嫌いなの?」

雨は冷たく降り続けて、神羅屋敷の薄汚れたガラスにわずかに水滴をつけていた。

クラウドはしばらく考え込むように黙った後、口を開いた。

「…血のイメージがある」

ザーザーとやかましい音を立ててバケツをひっくり返したように降り注ぐ雨や、夕立のような大粒の激しい雨は気にならない。

何故か、このしとしとと静かに降る雨は彼に「血」のイメージを誘う。

「血…?なの?」

ティファは怪訝そうに首を傾げた。

「…わからないけど…とにかく雨の日は気分が悪い。別にティファに当たってるわけじゃないんだけど…悪いな」

クラウドは不機嫌そうに呟くと埃っぽいベッドに寝そべった。

ティファはくすりと笑うと寝そべったクラウドの背に声をかける。

「クラウド、猫みたい」

「はぁ?」

クラウドが振り向くとティファは口元に手を当ててくすくす笑っていた。

「うふふ、ごめんね…でも雨の日に気分が悪いってそうしてゴロゴロしてると、なんだか猫みたいでかわいいな、って思って」

「猫…」

クラウドは眉を寄せた。

ティファははっとクラウドのその表情に気づくと首を振った。

「あっ、ごめんね。嫌な思いさせちゃった?悪気は無いの、ごめんなさい」

慌てて謝るティファにクラウドは首を振った。

「いや、そういうのじゃない…昔、誰かにそう言われたことがあったような気がして…」

「そうなんだ。ねぇ、誰に?」

ティファの問いにクラウドは再び眉を寄せた。

「…? さぁ…誰、だったかな…」

 

 

眼前に赤黒い血溜まりが広がる。鉄の臭いと硝煙の臭いが鼻をつく。

雨がしとしととクラウドの髪を、肌を、服を濡らしていく。

血溜まりに、誰かが倒れている。黒髪の…あの男は誰だ?

俺はあの男を知っている…忘れてはいけない、誰かだった気がする… …?

『クラウド』

『トモダチ…だろ?』

擦り切れたモノクロームの映画のような記憶の映像の中で男は微笑んだ。

 

いや、違う。知らない。

 

あんな男、俺は知らない―――

 

 

 

「…っ!」

クラウドはがばっと起き上がった。嫌な汗をかいている。

「クラウド?大丈夫?」

ティファが心配そうに顔を覗き込んでいた。

クラウドは自分の肩を抱いた。得体の知れない『何か』から自分を護るように。

「…厭な夢を…見た…」

「…どんな…夢を見たの?悪い夢は人に話すと良くなるって言うわ、よかったら…」

ティファは気遣うようにクラウドに語りかけた。

だが、クラウドは首を振った。

「…わからない…もう、忘れてしまった…」

クラウドは顔を上げ、窓の外を見た。

雨はまだ音もなくニブルヘイムの村に降り注いでいる。

クラウドは誰に言うでもなく呟いた。

 

「やっぱり…雨は嫌いだ…」

 


雨、というモチーフ 好き 「猫」発言はザク題冒頭の「野性」参照 ちょっと微妙に繋がってる

04/01/08

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