07:At Slam
有刺鉄線の巻かれた壊れかけのフェンス、ラクガキだらけの壁。むき出しのパイプが鈍く光る。
ザックスは何気なくスラムに来ていた。彼は、このスラム独特の雰囲気が好きだった。
『上』の街のような洗練された感じはなかったが、活気があって人が生きているという感じがした。
彼はしばしば、『上』とスラムを繋ぐ列車に乗ってスラムにやってきていた。
その日もしばらく街をうろついてそろそろ帰ろうかと思っていた時に、ふとザックスは足を止めた。
街角の看板の下にぼんやりと立っている少女。花売りのようだが、商売道具のはずの花籠は地面に置いたまま。
茶色の巻髪にベビーピンクのリボンを結わえ、同色のキャミワンピースを纏ったその少女が気になって、ザックスは声をかけた。
「どっか具合でも悪いのか?」
年のころは同じくらいだろうか?翡翠色の瞳がじっとザックスの魔晄の瞳をみつめる。
「別にそういうわけじゃないわ、ソルジャーさん」
少女はにっこりと微笑んだ。大人びた答え方だったが微笑むとまだあどけない感じがする。
「じゃあこんなところでぼけっと何をしてるんだ?」
ザックスは怪訝そうに問うた。
「花を売ってるの」
少女の答えにザックスは足元の花籠に目を落とした。
花はまだたくさん籠に詰まっている。売る気があるのかどうか、それすらも疑わしい。
「…あんまりそういう風には見えないけどな」
ザックスは肩をすくめて見せた。少女も真似をして肩をすくめる。
「ばれちゃった?」
ぺろりと舌を出す悪戯っぽいしぐさが可愛らしい。
「あのね、待ってるの」
なんだ、彼氏持ちか、と心の中でがっくりとしながらもザックスは一応聞いてみた。
「誰を?」
「誰だろうね?」
少女は頬に手を当てて首を傾げた。
ザックスは頭を抱えた。頭の弱い女なのか、計算づくの発言なのか…あるいは頭がおかしいのか?
「…こんなとこに一人でいたら危ねーぞ?」
一応無難な話題に変えようとザックスが話題をふったが、少女はただ黙って首を振った。
「ううん、『誰か』を待ってるんじゃない…時が…運命が動くのを、待ってるの…」
ザックスにその意味はわからなかった。けれど決意を秘めたような凛とした口調に、その横顔に…ザックスはどきりとした。
「…そっか。俺、ソルジャーのザックスって言うんだ。君は?」
「私、エアリス。花売りよ」
先ほど一瞬見せた表情は消えて、彼女は柔らかな笑顔を見せた。
「ンじゃ花売りさん、俺に花売ってよ」
ザックスはにっと笑った。少女はやっと花籠を手に取った。
「いいわよ。1ギルでどう?」
エアリスはそういうと花籠の中から花を手際よく選んで小さなブーケを作った。
「安いな。儲からないぞ?」
「ザックスは優しいから、おまけしてあげる」
彼女はそう言って手の中のブーケをザックスに手渡した。ザックスは代わりに1ギルを払う。
「スラムで花なんて珍しいな」
「でしょう?」
これだけ上等の花はスラムの汚れた土で育つはずはない。どこか遠くからきた花売りなんだろうか。
だとしたら2度と会えないかもしれない。
でも、彼の乗る予定の列車の時間は刻々と迫ってきていた。
「…エアリス。また会って話したいな」
ザックスは思い切って言ってみた。エアリスはその言葉にこくんと頷いた。
「私も同じこと考えてた。ザックスは初対面の私の事、心配して声かけてくれて…もっとお話してみたいなって思ったの」
にっこりと、花のように笑うとエアリスは続けた。
「私いつもここでお花売ってるから…また、買いに来てね」
「ああ」
ザックスは手を振ると駅に向かって歩き始めた。エアリスはザックスの後姿が見えなくなるまで、彼の背を見ていた。
この時から運命の輪が、少しずつ回り始めた。
この2人が出会ったところから、始まりだったんじゃないかな エアリスって自分の運命とか判ってたと思う
OPムービーの彼女は機を「待って」いたように見えた
03/12/04
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