02:Jack Of All Trades

今日の一番の依頼は巨大な荷物を5番街まで運ぶ事。

あまりに巨大な箱を開けると、中には死体が…!

 

「…っていう夢を見た」

「っていうか夢だろ?」

何でも屋の2人組、ザックスとクラウドはいつものようにティファの経営するレストラン兼バー「ファイナルヘヴン」で朝食を取っていた。

そのときの会話がこれである。

「くだらない夢ばっかりみるなよ。この間はキリンの世話をする依頼の夢見たとか言ってたろ?」

クラウドはコーヒーにミルクを入れながら呆れたような口調で言った。

「別に選んで見てるわけじゃないんだけどよ…」

ザックスは気まずそうに頭をかいた。

そこへ話を聞いていたティファがカウンターの反対側から話に加わる。

「でも、そんな夢見るなんて疲れているんじゃないかしら?最近仕事、忙しいみたいだし…大丈夫?」

ティファの言うとおり、元ソルジャーの2人組がやっている何でも屋は、ザックスの人当たりのよさとクラウドの几帳面さ、

それに引き受ける仕事の幅広さや2人の腕前も手伝って評判は上々、かなりの忙しさだった。

「ティファちゃんは優しいねえvでも大丈夫だよ、今日は仕事夜だけだしさ」

「う〜ん、でも無理はしないでね。たまには休暇、必要だと思うし」

 

昼頃になって、急に仕事が舞い込んだ。

「ここにおいてある荷物を、5番街のある倉庫まで運んで欲しいんですけどぉ…私の力じゃ運びきれなくてぇ…」

気だるげな口調で話す依頼人は暗赤色の口紅とゴールドのアイメイクがけばけばしい、若い女性。

ウエーブのかかった赤茶の髪に頬に影を落とすほどの睫毛、そして胸元の大きく開いたドレスが派手な女性といった印象を強めている。

「わかりました…」

クラウドは地図を受け取ると、頷いた。

「じゃあ私は先に行ってるんで〜、よろしくお願いしますぅ」

仕事は7番街の隅っこのあばら家にある荷物を5番街の倉庫に移す事。単純な仕事だ。

依頼人が去った後遅れてやってきたザックスにクラウドは仕事の概要を説明した。

「さて、さっさとかたづけちまうか。そーすりゃ午後は仮眠が取れるぜ」

ザックスは肩を回すと立ち上がった。クラウドは何か引っかかるものを覚えながらも、ザックスと件のあばら家に向かった。

 

「は〜…」

あばら家には予想以上にでかい鉄製の箱が1つ。

長持を連想させる型のその箱は2人がかりで持ち上げるような感じだ。

「思った以上にめんどくさそうだな…」

クラウドは軽い溜息をついた。そんなクラウドとは反対に、ザックスはもう運ぶ気でいる。

「よし、運ぶぜークラウド、そっち側持てよ」

引き受けてしまったからには仕方がない。これは仕事、なのだ。

クラウドはしぶしぶ箱の片側に手をかけた。

「せーの」

掛け声に合わせ持ち上げてみると結構重い。

「これで5番街までか…結構キツイな」

7番街から6番街まではゲートを通るだけでよい平坦な道だが、6番街から5番街は悪路でモンスターも時折出る。

しかし車を使おうにも車はない。それにどのみち6番街から5番街に繋がる道は車が走れるほど整っていない、

やっと人間が通れる程度に整備された道なのだ。結局その間は徒歩で移動するのだから大して変わりはない。

「仕方ねーな、行くぞ」

 

ゲートを抜け、人気のない悪路に差し掛かったところでザックスはふと呟いた。

「中身なんなんだろうな。クラウド、何か聞いてるか?」

ザックスはちょうどこの仕事の依頼人が来た時は席をはずしていて、仕事の事はクラウドを通して簡単に聞いただけだった。

「…聞いてない」

「なんだよ、聞いてないのか?一応聞いとかないと爆発物とかだったら困るだろ」

仕事にいつも落ちのない、クラウドにしては珍しい失敗だった。

しかしこの失敗が、思わぬ結果を招く事になる。

「…もしかして、死体だったりしてな」

クラウドは軽い冗談のつもりだったが、一瞬顔を見合わせた二人の脳裏には今朝の夢の話が蘇った。

見れば見るほどこの鉄製の箱が胡散臭く感じられた。棺桶のようにも見えなくもないこの箱、そしてこの重さ…

「まさか、な」

ザックスはくだらない考えを払拭しようとしたが、一度浮かんでしまうとなかなか消えないもの。

気になって足の進みものろくなりがちである。

「…なあ、ザックス。ちょっと中身見ないか?」

「おいおい、人の持ち物だぜ?」

クラウドが提案し、ザックスが嗜める。普段と逆の、なんだか奇妙な光景だ。

クラウドは、仕事に出る前に感じたあの妙な感覚を振り払いたかった。荷物が何だか判れば、払えるような気がする。

「爆発物だったら困る、だろ?」

もっともらしい、でもこじつけとも言える意見だが、箱の中身にはザックスも興味はあった。

「ああ…じゃ、ちょっと見てみるか」

何でも屋という職業とはいえ見ず知らずの男に荷物を預けるのに、箱に鍵もかけない無用心な女性だった。

ザックスは恐る恐るふたを開けた。夢がリプレイされないことを祈りながら。

「…… …何だ」

クラウドは安堵の声を上げた。

女性が依頼に来たときに身につけていたような、スパンコールやらラメやらラインストーンやらのついたきらびやかな服がたくさん入ってる。

「随分衣装持ちだな…ティファだってきっとこんなには持ってないぞ」

別に不審なものでなかった以上これ以上詮索する必要性はない。

そう判断したクラウドは蓋を閉めようとしたが、ザックスはそれを制止した。

「…何だよ、ザックス」

「クラウド…変だと思わないか?」

ザックスは眉根を寄せた。

「こんなひらひらした服が入ってるだけでこんな重さにはならねーよ」

「あ!」

クラウドは手を叩いた。

「じゃあ、なんでこんなに重いんだ?」

ザックスは服を箱の蓋の方に移動させると底を調べた。

「…二重底だ」

板をはずすと、白い粉の詰まった小さな袋が大量に並べられている。

「…粉?」

クラウドがザックスをみやるとザックスはその袋を凝視していた。

「これは多分…スピード、だ…」

「スピード!?じゃあ…これは…クスリ…なのか…」

あの女性は自分で運ぶと足跡がつく可能性があるから、何でも屋の2人を雇って運ばせたのだろう。

「ザックス…治安維持の警備隊に連絡を取った方がいいか…?」

神羅が消えてから、ミッドガル地内の治安は自治組織によって結成された警備隊に頼られていた。

クラウドは微かに動揺していた。ザックスも一度は頷いた。

「ああ、そうだな… …待てよ?もしかしたら…」

「何だよ、ザックス」

含みのあるザックスの言い方が気にかかってクラウドは携帯のボタンを押す手を止めた。

「クラウド、ちょっと待て。このまま運ぼう」

「どういうつもりだよ?」

「いーから」

ザックスが荷物を持つように促すと、2人はまた足を進めた。

 

2人は指定された場所までどうにか荷物を運び終えた。女性はまだ到着していない。

指定された倉庫は7番街のあばら家に勝るとも劣らないいかにも寄せ集めの廃材で作りました、という倉庫だった。

「ザックス、いったいどういうつもりなんだ?」

クラウドは訝しげに尋ねた。ザックスは周りに人がいないのを確かめると口を開いた。

「俺達がスピードをそれとわからずに運ばせるためのダミーだったなら、あのねーちゃんもダミーだったわけよ。俺らに顔を見られてるんだからな」

「あ、そうか」

「下手すっと足跡を残さないために仲間に消される可能性がある…

だからあのねーちゃんを尾行(つけ)れば、もしかするとスピード所有者を一網打尽に出来るかもしれない、っつーわけ」

ザックスは軽くウインクしてみせた。

そこへ件の女性が姿を現す。

「遅くなっちゃってすいません〜これ、お金ですぅ」

「どうも…」

クラウドが受け取るとザックスはにこりと笑った。

「ンじゃ、また何かあったらご依頼ください。美人にはサービスするからv」

振り向きざまにそう言い、足早に去る。

…と見せかけて2人は物陰に隠れ息を潜めた。例の箱を運び入れた倉庫(小屋?)をじっと見守る。

待つ事数十分。

数人の男女が現れた。

「ザックス、あれは…」

「間違いないな。腕に注射の跡がある奴も居るし、顔色とか表情がやばそうな奴もいる…っと、中に入ったな。俺は裏に回るから、クラウドこっち頼んだぜ」

ザックスはそう言うと悟られぬよう裏手に回る。

ややあって、先ほど入った数人の男女が仕事を依頼した女性を囲むように出てくる。

「来たな」

ザックスはひとりごちた。

向こうだって莫迦じゃない。不穏分子の始末は早めにやっておかないと自分達の身が危ないのだから。

目立たないようにクラウドに合図を送るとザックスは後をつけた。

彼らは薄暗い路地に入っていった。

ナイフをちらつかせ、今にも女性に襲い掛からんとしている。

男女が襲いかかろうとした瞬間に、ザックスとクラウドは後方からそれぞれに容赦ない一撃を加える。

数人の男女は次々と地面に倒れた。気を失ってしまったようだ。

地面にへたり込んだ依頼人の女性を見下ろすとザックスはにっと笑顔を見せた。

「女性のボディーガードもアフターサービスのうち…でも、ちっとご同行願えます?」

 

「面倒な仕事だったよなあ…」

女性を始めとする数人の身柄を警備隊に引き渡すとザックスは帰り道、煙草に火をつけながらつぶやいた。

「ごめん、俺のせいで…」

クラウドはうなだれた。

仕事内容の細かいチェックを忘れた所為で更に仕事がややこしくなった、と責任を感じているのだ。

そんなクラウドにザックスは笑いかけた。

「まーいーじゃん。おかげでクスリの摘発できたわけだし」

日の傾いた道に、ザックスの煙草の紫煙が立ち昇る。

その姿を見るとクラウドは口を開いた。

「…ザックスの変な夢、少しは役に立ったな」

「ん?まあな。でもティファちゃんの言うとおり休みは必要かもな」

「でも次の仕事、俺一人に任せないでくれよ」

「わかってるって」

 

西に傾いた赤い日が、二人の影を伸ばしていく。

 


何でも屋パラレルは二周年の所にもありますので良かったらお読みください。

細かい設定は;
★ティファの経営する「ファイナルへヴン」の一角を借りてザックスとクラウドは何でも屋をやってる。
★「ファイナルヘヴン」は商談にも使われてる。
★メテオ後だけどザックスは生き返りか生還かは特に設定なし

03/10/22

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