雪ふわり

 

聖誕祭前夜。ザックスは遠征帰りに街を歩いていた。

モンスター退治の数日間の遠征後、真っ先に恋人の許に帰りたいはずの彼がこうして道草を食っているのは

寮で待つその金髪の恋人にケーキとプレゼントを買うためである。

街はすっかり色とりどりのイルミネーションで飾られ、幸せそうな恋人達や家族が買い物や食事を終え、家路についている。

寒い中、街の中央に飾られた一際目を引くツリーに、人々は足を止めて見とれていた。

赤や青や黄色や様々な光がツリーを彩り、夢のようだ。例外なくザックスも足を止めてその美しさに魅入った。

そのツリーの下でふと、ザックスはとある案を思いついた。

 

着信音が鳴る。クラウドは洗いかけのマグカップをシンクの中に戻し、ベッドの上に投げ出した携帯電話のもとへ駆け寄った。

「ザックスから…?」

ザックスから、一通のメールが届いている。

クラウドは不思議に思いながらボタンを操作した。

「到着が遅れるとかかな?駅に迎えに来いとか…」

メールを開封してみたクラウドの顔色がさっと変わる。

「『ひどい傷、すぐに迎えに来てくれ。街の中央のツリーの所までかろうじて来ている』」

クラウドは取るものもとりあえず、ジャケットを一枚羽織ると街へ飛び出した。

 

部屋から出ると肌を刺すような冷気がクラウドを襲った。吐き出す息は白い。慌てていたとはいえ少々薄着過ぎたか。

けれどザックスが怪我をしているなら…一分だって一秒だって早く行かなくては…!!

気持ちばかりが焦るクラウドは小柄な身体で全精力を費やして恋人のもとへ向かう。元々足は速い方であったし、すぐに目標のツリーが見えた。

そしてツリーの下にうずくまる恋人の姿も。

「ザックス…っ…」

コート姿の恋人に慌てて駆け寄ると、彼は予想に反して立ち上がりクラウドをぎゅっと抱きしめた。

「!!??」

「クラウド…会いたかった…」

一瞬の事に思考が回らないままクラウドの身体はザックスの腕の中にすっぽりと包み込まれてしまう。

やっとクラウドの思考回路が再起動した時、彼はザックスを突き飛ばした。

「おっと」

ザックスは結構な力で押されても倒れずににっと微笑った。クラウドは怒りと困惑と羞恥で耳まで赤くなりながら言う。

「ひ、人が見てる…っよ…!それに、怪我、してないじゃないかっ!!心配かけて…!」

「クラウドちゃんに会えなくて『傷心』だったんだよ。心に傷♪」

へらりと笑うザックスにクラウドは容赦なく鉄拳を繰り出す。ひょいとそれをかわすとザックスは笑顔で言った。

「クラウド、MERRY CHRISTMAS」

この太陽みたいな笑顔にいつも騙されてしまう。クラウドはふっと軽い溜息をついて答えた。

「ああ…」

こんなそっけない返事しか出来ない自分が歯痒いけれど、

この年まで友達らしい友達のいなかった彼は返事の勝手一つわからないのだからどうしようもない。

そしてザックス自身はそんな不器用なクラウドがたまらなく好きなのだ。

「心配させて悪かったって。お前と部屋でひっそり祝う聖誕祭も悪くないけど、このツリーがすっげ綺麗だったからついお前と一緒に見たくなったんだよ」

クラウドは思わずツリーを見上げた。さっきまでこのツリーの美しさなんかを見ている心の余裕なんて無かったのだ。

改めて見上げるとツリーの光は色とりどりの宝石のような輝きを放っていた。

「綺麗だ…」

ぼそりとそう呟くクラウドにザックスは笑みを向けるとそっと屈んでその唇に啄ばむようなキスを落とした。

「!!」

クラウドは一瞬の出来事に頬を染め、反射的に口を押さえる。

「ばっ…それこそ人が見て…!」

「だいじょうぶ、みんな上を見てるばかりで今のキスになんか気づいちゃいねーって」

それにさ、とザックスは付け足した。

「このツリーの下でキスしたカップルは強いキズナで結ばれる、ってジンクスがあるらしいのさ」

クラウドは頬を紅くしたままそっぽを向いた。

「あんた、そんなの信じてるのか?」

「『信ずるものは幸いなり』とかなんとかっつーだろ?」

その小さな背中からザックスはひょいっとクラウドの表情(かお)を覗き込む。

「ひょっとして怒っちゃった?クラウドちゃん」

「その呼び方やめろ!」

きっとザックスを見据えたクラウドにザックスはひらひらを手を振った。

「ごめんごめん、さっきの気苦労のお詫びも兼ねて俺が今日メシおごるからさ、な?」

 

 

2人が食事を終えて家路につく頃は人通りもすっかりまばらになっていた。

「ありがとうございましたー」

ウエイトレスの一際高い声を背に受けながら2人が店を出ると、あたりはうっすらと雪化粧をしていた。

ふわふわと舞い落ちる雪や薄く積もった雪ににツリーの光やイルミネーションが反射して、辺りは幻想的な雰囲気に包まれている。

そろそろ辺りの店も仕舞の時間だ。だんだんと音を消していく陽気な音楽や鈴の音が、少し切ない。

「こうして雪が積もってみるとまた綺麗だな」

感嘆したようにザックスが呟く横でクラウドは頷きつつも僅かに身を震わせた。

雪が降り更に気温の下がったこの時間、彼のセーターにジャケット一枚の薄着は堪えた。

するとふいに首の辺りをふわっと柔らかい何かが覆う。

「あ…?」

顔を上げるとザックスが白いマフラーをクラウドの首にそっと巻いていた。

「プレゼント。やっぱクラウド、白似合うわ」

「あ、ありが…とう…」

クラウドは巻かれたマフラーをぎゅっと握り締めた。

ザックスはすっとコートの裾を広げるとにこっと笑った。クラウドの好きな、太陽のようなあの笑顔。

「入ってくか?」

「…うん」

 

一つの影が、二つの足跡を立てて路地の向こうに消えていった。

 

MERRY CHRISTMAS!!

 


断じてザックスはこういう阿呆な事をする人じゃないと思うすみません…;
もっとカッコいいザックスが書けるようになりたいよう(T_T)
コートの中に入るってシチュが結構好きで。もっと身長差のあるコンビなら尚良し。
セフィエア(こっそり好き)みたいなのとかあとこどもがお父さんの上着の裾に入ってるのって良いなあ。ジェクトとちびティとかユウナんとブラスカ様とか。

 

Dear:郁様

リクエストありがとうございました。これがはじめましてでも全然構いませんよ*
むしろ私などの小説を欲しがっていただけて本当に幸せです。
ザックラで、ほのぼの幸せな雪の夜と言う事で書かせていただきましたが、ほのぼの感出てますでしょうか…?
こんなものですが郁様に受け取っていただけたら幸いです*

I Wish You A Merry Christmas...

 

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