★SECRET MEETING★
降誕祭の前夜。サンダイル広しと言えどどこに住まう恋人達も大抵は同じで、2人きりでその夜を過ごす。
ところがここノースゲートに互いに想いあっているのに気持ちを言いだせず、2人で過ごせない恋人達がいた。
「グスタフ〜っ」
ふわふわの金髪をリボンで結わえた少女がその恋人達の片割れの名を呼びながら駆けてきた。その少女を追って銀髪の優男が駆けてくる。
「聞いてよ聞いてよっ、ロベルトがケチなの〜っ」
少女はオーバーな仕草でグスタフの肩にしがみつくと、愚痴を零した。
「酒場のパーティーに行っちゃだめって言うんだよっ」
少女…ジニー・ナイツはグスタフのレザージャケットの裾を引っ張りながら銀髪の青年を見た。その銀髪の青年―――ロベルトは肩をすくめる。
「だからさっきも言ったろ、ジニーちゃん。意地悪で言ってるんじゃないんだ。
こういう時に君をあーゆう盛り場に連れ出すのが心配なのっ。パーティーってのは華やかなだけじゃないんだぞ?
下心抱えた奴とかああいうお祭り騒ぎに乗じて何かやらかす連中がいたりすんの。そんなとこにジニーちゃんを連れてったら危ないよ」
下心を抱えた奴ってのはお前のことだ、とグスタフは思ったが思っただけに留め黙っていた。この場を混乱させない賢明な判断である。
ジニーは負けじと言い返した。
「そんな事言ったって…あたしだってパーティー行きたいもん!
七面鳥とかケーキとかシャンパンとかピザとか、おいしいものいっぱいなんでしょ?ダンスもあるんでしょ?
どーせ夜遅くなったらロベルトもグスタフもプルミエールだって、こっそりパーティーに行くんでしょ。あたしだけ仲間はずれなんて嫌っ」
風船みたいにほっぺたをむくれさせて、ジニーはロベルトを見た。
「でも…」
2人の押し問答を黙って見ていたグスタフがこのままでは埒があかないと思い、口を開いた。
「いいじゃないか、連れていってやれば良いだろう」
彼の一言にジニーの顔がぱっと明るくなった。
「おいおい」
抗議の声を上げるロベルトにグスタフは言った。
「別にそこまで危ないところじゃないさ。俺たちがついてれば大丈夫だ。
それに彼女の言った事は図星…どうせ俺たちだって行くつもりだったんだろう、ロベルト?
なのにジニーにだけ行くななどと言う権利、俺たちにはない」
「わ〜ん、ありがとうっグスタフっ!!」
ジニーがぎゅっとグスタフにしがみつく。…妹がいたらこんな感じなのだろうかとグスタフは思った。
本当に喜怒哀楽の激しい娘だ。自分もせめてこの半分でも感情を表現できたら、と彼女が羨ましいくらいに思える。
「やれやれ…」
ロベルトはその様子を見ると呆れたような表情を見せた。
「もうパーティー始まってるよな…」
そう呟くとロベルトはちらりと酒場の方に目をやった。
「ね、早速行こうよ」
ジニーがせかす。同時に彼女のお腹がぐぅと鳴りジニーは慌てて頬を染めると腹をおさえた。
ロベルトはその様子にぷっと吹き出した。
「しょーがねぇなあ、ジニーちゃんは…待ってろよ、今プルミエールにも声かけてくるから4人で行こうや」
彼はそういうと踵を返し、彼女のいる宿に向かっていった。その背中を見送るとグスタフは傍らのジニーに悟られないようにそっと溜息をついた。
ロベルトがプルミエールの事を好きなのは何となく感じていた。
また、グスタフ自身が身分を隠して家出している身である事と、相棒の思い人と自分の思い人が一緒という事が重なって更に言い出しにくくなっている。
『まったく皮肉なものだ』
グスタフは心の中で一人ごちた。
今までいくつもの縁談を勧められたが、どの女性もあまり好きになれず断っていた。
そうして家を飛び出した後やっと心から好きだと思える女性が出来たのに、この状況だ。
『こんなにも女性を好きになったことなどなかったのに』
その細い肩が切ないほど愛しくて、思わずそっと抱きたくなるほど。
誰かを好きだという気持ちを自分はこんなにも強く持てたのか、と自分で思ってしまうくらいだった。
「どしたの〜、グスタフ?何か暗いよ」
はっと我に返るとジニーが下から大きな瞳で怪訝そうに見あげていた。
「あ、ああ…なんでもないんだ」
その言葉を聞くと少女は手を後ろで組んで、言った。
「ふぅん…でも、今日は聖なる夜のお祭りなんだよ。もっといいカオしてなきゃ。ほら、お祭りの夜だもん、なんか良い事起きそうじゃない?縦ジワ寄せてちゃ駄目だよっ」
えへへっとにっこり笑う。さっきのむくれ顔はどこへやら、すっかり上機嫌だ。やがてロベルトとプルミエールが連れ立ってやってきて、4人は酒場へと向かった。
酒場の中は既にディガーやヴィジランツ達で賑わっていた。
そこにはジニーが予想していたような様々なご馳走…
七面鳥にチキンにピザにオードブル、サンドウィッチにシュトーレンにチーズケーキにクリスマスプティング…シャンパンにワイン、カクテルまで。
村人の小さな楽団が陽気な音楽を奏で、歌って飲んで踊って…誰もがこの聖夜のお祭りを楽しんでいた。
ジニーはさっそくチキンに手を伸ばし、かぶりついている。グスタフはロベルトに「まぁまぁ一杯」と注がれたシャンパンを片手に椅子に腰掛けた。
「おいおい、ジニーちゃん、まだ早いぜ。さ、プルミエールもグラスを持って、まずは乾杯といこう」
「あたしもっ、あたしもシャンパン飲みたい♪ロベルト、ちょうだい」
来るまでは反対していたくせに、結局はロベルトもジニーには弱いのだ。ジニーのグラスにもシャンパンを惜しげもなく注いでやる。
「さて俺達の出会いと、この一年の収穫に乾杯!」
グラスが軽い音を立てて触れ合う。美味い食事に酒…会話も弾む。
けれど会話の中心はだいたいジニーで、グスタフはプルミエールと話すタイミングがなかなか掴めない。せめて今宵はこの一言だけは言いたかった。
「一緒にダンスを踊ってくれないか?」
けれど彼はここでもロベルトにしなくてもよい遠慮というか、無用な気遣いをしてなかなかその一言が言い出せなかった。
しばらくして会話が一段落したところでグスタフはそっと席を離れた。
酒場のテラスに出てみるとうっすらと雪が積もっている。空気がかなり冷たいが、むしろ暖かすぎるくらいの室内でほてった肌を冷やすのにはちょうどいい。
雪がふわふわと落ちてくるのを眺めながら、グスタフは呟いた。
「『俺達の出会いに乾杯』か…」
出会った時は別にどうとも思っていなかった。ただ、こんなか弱そうな娘と仕事をして大丈夫なのだろうか、そんな程度の存在だった。
だがともに仕事をしていくうちにほんの少しだけ、彼女の内面を垣間見て、その気高さ、優美さ…そして、強がっていても本当は脆い内面を持っている事…
少しずつ知るたびに、気がつけば彼女にひきずりこまれるように惹かれていった。
けれどこれだけでは足りない。もっと、彼女の事が知りたい。
脆いガラスのような内面も、白磁のような肌も、翡翠のような瞳も、醒めるような紅の髪も、全て。愛しくて堪らない。
「グスタフ」
ふいに後ろから声をかけられてグスタフは振り返った。見ればまさにプルミエールその人であった。
「どうかした?気分でも悪いの?」
「いや…別にそういうわけではなく…そうだな、ちょっとした気分転換のようなものだ」
プルミエールは少しずつ彼の方に歩み寄ってきて、そっと横に並んだ。
「いつの間にか積もっていたのね。…綺麗だわ」
雪明りがわずかに反射した彼女の肌は透き通るように白くて思わずグスタフはその白い横顔に触れたくなった。
「……」
しばらくグスタフはその横顔に見とれていた。
「グスタフ?私の顔に何かついていて?」
プルミエールの言葉にはっと我に返ったグスタフはかぶりを振った。
「…いや、なんでもないんだ」
今はやめておこう。触れたら雪のように融けて、消えてしまいそうなほど儚いから。
ふとグスタフは彼女の肩が寒さに震えているのに気がついた。そっと自分の上着を肩にかけてやるとグスタフは言った。
「…よかったら、俺とダンスを踊ってもらえないか?」
その言葉を聞くとプルミエールは今までに見せた事のないような、花のような微笑みを見せた。
「喜んで…」
椅子に腰掛け、窓の向こうの2人を見やってロベルトは軽い溜息をついた。
「やれやれ、ロベルトさんの恋は撃沈ですかね」
そう一人ごちると、ロベルトはグラスを傾けた。
「ま、ジニーちゃんにこーやって肩を貸してやって過ごすのも悪くないかね」
ロベルトの傍らには、彼に身体を預けて眠りこけているジニーが静かに寝息を立てていた。
HAPPY CHRISTMAS!
ラブ度が低い…涙。私は個人的に宮廷の華やかなクリスマスよりも、貧乏な労働階級の人たちがビールを浴びるように飲んだり、ポルカを踊ったりっていう素朴なクリスマスの方が好みです。
まだノースゲートから出ていない状態なのでお互いの素性は知りません。「グスタフ自身が身分を隠して家出している身である事」って別に恋愛に支障はないと思うんですけどね。
はじめ「宿敵オート候の娘なのに」っぽいこと書いてあったんですが時間軸をよくよく考えてみたら、「お互いの素性知らないはずじゃあ…」って事になって、慌てて書き換えたため何か不自然に。
グスプル←ロベっていうのが実はすごく好き。でもロベルト、泣け(酷)君にはジニーちゃんがいる!!
SECRET MEETINGは「逢引」ですね。日本語の方が響きが好き。この程度じゃ逢引とは言わんでしょうが。
Dear:ネム様 リクエストありがとうございました。プルミエールに首っ丈なグスタフ氏のグスプル…ということでしたが、首っ丈度が足りない; I Wish You A Merry Christmas... |
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