愛する人からの手紙を受け取ってから待つ事5日。

私が玄関の階段に座って本を読んでいると、向こうからバンダナを巻いた青年が走ってくるのが見えた。

彼の名は、ロック・コール。私の愛しい人。

「久しぶり、レイチェル」

「こんにちは、ロック。…あら…なあに、それは?」

ロックが後ろ手に持っているものは白く可憐なひとつの花。

「ああ…これは」

彼は私にその一輪の花を差し出すとはにかんだ。

「お土産。今回の仕事、マランダまで行ったんだ…そこであんまり綺麗だから少しくすねて…」

そう言いかけて彼は慌ててかぶりを振った。そして頭を掻きながら続ける。

「いやいや、少し頂いてきたんだけど…何とか枯れずに残ったのはこれだけだったんだ」

私はその花を受け取って匂いをかいだ。

「有難う、ロック…でもね、この花、うちにもあるのよ」

「えっ!?」

私が笑うと彼は心持ち赤くなった。

「西側の花壇にいっぱい咲いてるわ」

「あ… ご、ごめん!気付かなくて!!」

慌てて謝る彼が可愛らしい。

「ううん、いいの…私、この花すごく好きだし、それに…ロックからこの花が貰えるなんて嬉しいわ」

今までも彼は宝以外に世界中で見つけた珍しい物を私にくれた。

蟻の閉じ込められた琥珀や、フィガロの近くで見つけた砂金や…

でも、私はどんなに珍しくて奇抜なものよりも、私はこの花が一番嬉しかった。

何故ならこの花の持つ言葉は――――――……

 

「綺麗な花ね」

私の身体が消えた後、何故か私の精神<こころ>はあの花壇に残っていた。

そう、今思えば私はフェニックスの与えてくれた僅かな時間の中で彼に一番言いたかった事を言う事が出来なかった。

だから、あの花壇に魂だけを残していたんだと、思う。

私の大好きだったあの花の咲く花壇は帝国の攻撃を受けても、世界が2つに引き裂かれても、かつて家の在った所の西側に残っていた。

花壇いっぱいに咲き誇る雪白色の花の前に金髪の女性がしゃがみ込んで花を見つめている。

「真っ白で凄く綺麗な花。荒れ果てた世界でよくこんな花が育ったわね…ねぇ、ロック?」

彼女が視線を上げた先に立っているのはロック。

ロックの彼女を見つめる真っ直ぐな瞳を見て、私にはわかった。

彼女こそが、彼が私の冷たくなった屍に会いに来つつも、ずっと心の底で想い続けていた女性<ひと>なのだと。

「…レイチェルはその花が好きだったと言っていた。

昔ここにこの花が生えている事を知らなくてあいつに“マランダのお土産だ”って渡した時も、あいつは凄く喜んでくれた…」

すると金髪の女性は立ちあがって彼に問い掛けた。

「ねえ、ロック。この花の花言葉、知ってる?…だからレイチェルさん、喜んだんだと思うわ」

「えっ?」

女性はロックの顔を覗きこんだ。

「花言葉。知らないの?エドガーなら絶対知ってるわ」

「あ、あんなナンパ男と一緒にするなよ…」

「知らないんだ…じゃあ、教えてあげる」

そう、この言葉が私が最期に一番ロックに伝えたかった言葉。

「『あなたに愛されて幸せ』」

私は彼女の言葉と同時に精一杯の力と心を込めて彼の耳元で囁いた。

彼は、ロックはほんの少し振り向いた気がした。

 

…伝わった。

 

私のもう透けて見えなくなった身体が藍白の空に吸いこまれて行く。

どうか、幸せになってください。私の大好きだった人。

いつか私にしたように、その女性<ひと>を愛してあげて。

 

……私はあなたに愛されて幸せでした……

 


02/02/24

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