「きゃっ!」

やばい、と思ったときは遅かった。

跳ね飛ばされて身体が宙に舞っている。

 

もう大ミミズの穴なんてなれっこだよ、と油断していたのが悪かった。

グスタフに一番の敵は自らの隙、と釘を刺されたことを今更思い出す。

そうだ、キャリアーアントに襲われて死んだ人だっていっぱいいるのだ。

はじめて来た頃パブのおじさんが気をつけろって言ってたっけ、どこか他人事にそんなことを思い出して。

 

「ジニー!」

華奢な体に似合わず俊足なプルミエールがいち早く駆け出す。

が、彼女の伸ばした腕は間に合わず、ジニーの身体はどさりと土の上に落ちた。

 

群れに遭遇するなんて珍しいことだ。

キリがないほどに次々と襲い掛かってきて、跳ね飛ばされたジニーに駆け寄ろうとする3人を阻む。

グスタフがロベルト、プルミエールと蟲の群れを引き離すように鉄の剣を振り下ろし、そのまま壁になるように立ちはだかる。

「早く行ってやれ。頭を打っているかもしれん」

一閃すると蟲の緑色の体液が飛び散った。ロベルトはうなずくとジニーに駆け寄る。

 

「ジニー!大丈夫?!」

プルミエールが頬を叩くと、ジニーが薄目を開ける。

「う、うん…?」

落ちた衝撃で全身が痛む。足首をひねったようで足に力が入らない。

「だいじょぶ、でも、立てない…」

「無理しなくていいぜ」

ロベルトは手早く腕輪に水のアニマを集中し、術をかける。

「ロベルト、頼むわ。私は彼の援護に行く。蟲を退かせなきゃ、どうにもならない」

プルミエールは槍を構える。

「おう、ねーさん頼むぜ」

 

痛みの中でほんやりと2人の戦う姿を見て、自分の未熟さを痛感した。

自分をこんな風に跳ね飛ばした蟲たちを、いとも簡単に退けてゆく。

あぁ、あたしはまだまだ、なんだ。

歯痒い。そう思うと視界が涙でゆがんだ。治療をしてくれているロベルトに涙を見られないように、そっとうつむいた。

 

ものの数分で蟲の群れは退却した。

プルミエールとグスタフが振り向いて頷く。今のうちだ、と。

退却した蟲たちがヘタをすると仲間を呼んで舞い戻ってくる可能性がある。

今日は引き上げた方がいい、と誰もが直感した。

「ジニーちゃん、立てるか?…って、え?」

ロベルトは一瞬うろたえたような表情を見せた。

ジニーの蜂蜜色の瞳から大粒の涙がポロリと零れ落ちたのだ。

「だ、だいじょぶか?痛い?!ごめんな!」

ロベルトはますます動揺し、わけもなく謝る。プルミエールもグスタフも驚いた表情でこちらを見ている。

いつも怪我をしても「このくらい!」と言って跳ね除けていたジニーが泣いている。

 

「だ、だいじょうぶ…だよ…」

それでもぽろぽろと涙がこぼれてくる。

傷が痛いんじゃない。自分の不甲斐なさが情けない、そんなことますます情けなくて言えなかった。

ひねったばかりの足首がまだ痛くて弱気になっていたのかもしれない。

だけどぐずぐずしている時間はない。手練のパーティーとはいえ、この状態でこれ以上襲撃を受けたら最悪の事態もありうる。

ロベルトはそっとジニーに背を向けて屈んだ。

「ジニーちゃん、とりあえずここを出よう」

ロベルトの術のおかげで大分痛みは弾いていたが、ジニーは黙ってロベルトの背におぶさる。

銀色のくせっ毛が頬に当たって少しくすぐったかった。

 

パーティーは村までの短いようで長い距離を黙って歩いた。

ロベルトの背からぬくもりが伝わってきて痛みとか、情けなさが和らぐ。

ジニーはロベルトに背負われながら、父に背負われたとしたらこんな感じだったのだろうかとロベルトの首に回した腕にほんの少し力をこめた。

「ぐわっ、ジニーちゃん首絞めるなよっ」

ロベルトがわざとらしく舌を出す。けれど、そっと横目でジニーの様子を伺って。

ジニーはロベルトの髪に顔を埋める。洒落者の彼らしい香水の香りと、ほんの少しの煙草の匂い。

胸の奥のもやもやがすうっと取れていく気がする。

「ロベルト、あたしもうだいじょぶ」

「え?じゃあ歩く?」

「ん、もすこしこのまま」

「なんだよ」

2人のやり取りを見ていてプルミエールが呆れたように微笑む。グスタフの口元もわずかにやわらいだようだ。

4人の間にあった沈黙がふっとほぐれた。

いくら力及ばずとも、ジニーは確実にそういった面でパーティーの中核を担う才覚を持っていることを本人は気づいていないのだ。

「あーぁ、ジニーちゃんが重くってオレ腹減っちゃったよ」

ロベルトがおどけたように言う。

「…でもこのままがいいもん」

「ん?」

ロベルトの背中は安心する。温かくて広くて、ロベルトのにおいがする。

「なんでもないっ」

「なんだい、きょうは」

ジニーはまたロベルトの髪に顔を埋めた。

ロベルトはため息をつく、けれどその口元は微笑っている。

 

「ジニーちゃん?…なんだよ、寝ちまったのか」

ロベルトの背の温かさはいま、彼女だけのもの。

けれど彼女の作る温かさは、皆を包んでいた。

 


こども(かな?ジニーって)が育つのに必要なのは 自己を肯定・許容・愛してくれる存在だと思う

06/09/20

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