★★★

 

仮装をした子供達が元気よく夜のテルムの街を走り回る。

子供達に夜遊びが許されているのは新年と、クリスマスと、国王誕生日と…そして今日、ハロウィンだけ。

子供が大人をも巻き込んで、街はちょっとしたカーニバルのようだ。

 

 

「やれやれ、ギュスターヴは…いつまでたっても子供だな」

先日テルムに戻ってきたばかり、新たな統治者となったギュスターヴをテルムの人々がどう受け入れるか、ヤーデ伯ケルヴィンは実のところ不安だった。

けれど騒乱が続いたこの地方の人々は安定しさえすれば誰でもいいとでも言うのか、抵抗なくギュスターヴを受け容れた。

それどころかギュスターヴは妙に人々に慕われていた。やはり鉄の力を使い、新しい時代を開拓した英雄だからだろうか…

否、それとも彼の天性の人を惹きつけずにはおけない魅力なのだろうか。

28にもなって王宮に住まう身分だろうに、自らも仮装をして子供達の輪に飛び込んで菓子を与えているところなどまるで王というよりガキ大将のようだ。

そんな姿を見てケルヴィンにとってはホッとしている面が半分、呆れている面が半分だ。あの分ではフリンも連れまわされているのだろう。

「全く…」

つい口に出してしまうのはそんな言葉ばかりだが、なにかとつらい事ばかりが続いたギュスターヴがああして笑っているのを見ると本当に良かったと思う。

ケルヴィンはしばらくテルム城のバルコニーからその様子を見ていたが、庭に人影を見つけて、ケルヴィンはそっと庭に下りた。

『お祭り騒ぎに乗じて進入した、賊か?』

ヤーデ伯家の者は代々槍術に長けている。ケルヴィンは灯の槍を構えると静かに庭を歩いた。

精神を集中し、庭に潜むアニマを捉えようとする。木の陰で、がさがさと音がし、ヒトのアニマの気配がした。

「誰だ!」

ケルヴィンが一喝した、次の瞬間。

「うわあぁ!」

「貴族様だー!」

木陰から次々と仮装した子供達が出てくる。

黒猫の格好をした少年、魔女の服を着た少女、ドラキュラの格好をした少年、ミイラ男の如く全身に包帯を巻いた少年などが脱兎の如く駆け出した。

そして最後に出てきた一番ちびの、赤ずきんの格好をした少女がどてどてと出てきて転んだ。手に持った籠からお菓子が零れ、土の上に転がる。

少女はその様を呆然と見ていたが、地面に座り込むとめそめそと泣き出してしまった。

貴族のお城に入った事で怒られるという恐怖、ひとりぼっちで置いていかれた不安感、お菓子を台無しにしてしまった悲しさが一気にこみ上げてきたのだろう。

さてこうなってしまうと困るのはケルヴィンである。

「ああ…可愛い赤ずきんさん、私は狼じゃない。脅かしてすまなかったな」

少女の頭を軽く撫でると、ケルヴィンはハンカチを出して少女の顔の泥と涙を拭いてやる。

けれど地面に転がったお菓子はもう復元しようがない。割れて、泥にまみれてしまっている。

ふとケルヴィンはある事を思い出した。

夕餉の後にレスリーが「城内で侍女や騎士達のの息子や娘達にあってお菓子をせがまれたらあげるように」と

焼き菓子や飴をいくつかケルヴィンに渡してきたのを上着のポケットに入れておいたのだ。

「籠を出してごらん」

ケルヴィンに促されて少女が恐る恐る籠を差し出すと、ケルヴィンは少女の小さな籠をレスリーに渡されたお菓子でいっぱいにしてやった。

普段貴族の娘達が食べているような見たこともない焼き菓子に、少女の泣きべその顔がぱっと明るくなる。

少女はケルヴィンに頭を下げるとパタパタと駆けていった。

「やれやれ、このお菓子をどうしたものかな」

ケルヴィンは立ち上がると溜息をついた。侍女に片づけを頼もうか、そう思って王宮の玄関に向かった。

するとケルヴィンは思いがけない人物に会うことになる。ギュスターヴの実妹にして、オート候妃のマリーである。

実はケルヴィンは憧れていたギュスターヴの母、ソフィーの面影を残すこの女性に思いを寄せていた。絶妙のタイミングである。

「ケルヴィン様、お優しいのですね…私見ていました、先ほどの少女とのやり取りを」

そう言って微笑むマリーにケルヴィンは気の聞いた言葉どころか、ろくな言葉も返せない。

「あ、は、はぁ…しかし、今のは私の勘違いで子供を泣かせてしまい…」

その時、街の方から秋の夜空に花火が上がった。街ではこの祭りが最高潮である。夜空に色とりどりの、大輪の花が広がる。

「綺麗ですわね」

「え、ええ…そうですね」

今度は何とか言葉を返したケルヴィンだったが花火よりも、それを見つめるマリーの横顔があまりにも綺麗で、ケルヴィンはどきりとした。

「今宵のこの花火をケルヴィン様と見る事が出来て、嬉しゅうございます」

「!!」

どういうつもりの言葉なのか…ケルヴィンはその夜ずっと鼓動が早鐘のようになって眠れなかった。

 

 

今となってみればそんなつもりで優しくしたのではなかったが、あの泣き虫の少女がキューピッドであったようにしか思えないのである。


マリーはケルヴィンと結婚するために離婚したんだと思う。(おい)

03/10/27

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