Bouquet Toss

 

ノースゲートの小さな酒場。

1組の若い男女の結婚式が挙げられようとしていた。

女はディガー、男はヴィジランツ。

仲間を祝福しようとノースゲートの村を挙げて結婚式の準備が行われた。

 

女の名はサラと言った。

サラはその日の朝、祝宴の準備で大忙しの酒場の厨房を手伝うプルミエールの元へやってきた。

「マスター。ちょっとプルミエールさんをお借りしてもいいかしら?」

サラは酒場の主人に尋ねた。

「彼女が良いっていうならそうしな」

主人は大きな鍋に入ったスープの味加減を見ながら笑顔でそう言った。

「…ですって。プルミエールさん、どう?」

彼女は濃紺の瞳でプルミエールを見た。

2・3度一緒にパーティーを組んだ事も有り、プルミエールと彼女は顔見知りだった。

「ええ、構わないわ。何の御用かしら」

「ウエディングドレスを着るのを手伝って欲しいの。手が足りなくて」

言われるままにプルミエールは手伝う事になった。

元々プルミエールはおしゃれをするのもさせるのも好きであったし、化粧をしてあげたりするのも上手かった。

サラのブロンドを結い上げ、唇に薄く紅を塗り…

ディガーとして男顔負けの仕事をするサラもどんどん女らしくなっていく。

サラに付き添っていた老婆と2人がかりで純白のウエディングドレスを着せ、最後にベールを被せた。

「いかがかしら?」

プルミエールはサラを鏡の前に立たせるとサラに訊ねた。

老婆がブーケを手渡すとサラは鏡を覗きこんで呟いた。

「…私じゃないみたい」

その呟きに老婆が相槌を打つ。

「そうじゃの。いつもの山猫のようなお前さんとは大違いじゃ」

「ひどいわ、おばさん」

そう言うとサラはプルミエールの方に向き直った。

物腰も心なしか女らしくなったように思える。

「…どうかしら?」

「とっても綺麗よ」

サラは照れくさそうに笑うと言った。

「有難う…プルミエールさんならきっと上手くやってくれると思った。何てお礼したらいいか…」

「そんな、お礼なんて」

まもなく恋人が迎えに来て、彼女は出ていった。

プルミエールは彼女の姿を見送りながらふと考えた。

いつか彼女のようにウェディングドレスを着る日に、ともに歩むのがあの人だったら良いな、と。

そんなプルミエールに腰の曲がった老婆が立ち上がりながら話しかけてきた。

「お前さん、まだ未婚のようじゃが?」

「あ、ええ…」

「お前さんもその赤い髪に白い肌で、さぞかし純白のドレスが似合うじゃろ。後は相手じゃな。もうおるのか?」

「……」

まだ片思いですけど、とプルミエールは心の中で呟いた。それを見透かしたのように老婆は言った。

「仲間の金髪の奇抜な男とかな」

「…!! ち、違います!」

無意識に否定したがかっと頬が熱くなるのがわかった。ここまで赤くなったら普通はばれるだろうが。

鈍いのか知らん顔をしているのか老婆は何やら投げやりにも聞こえる言葉を返した。

「じゃあ銀髪の方かの。何でもええが、お前さんほどの美人ならきっと良い相手が見つかるじゃろ」

老婆は杖をついている割には早足で「もう行かんと間に合わんぞ」と言って出ていった。

プルミエールはそっと胸を押えた。

 

走っていったおかげで何とか結婚式には間に合った。

教会こそ無かったが指輪を交換し、恋人の隣で微笑うサラは本当に幸せそうだった。

そしていよいよ最後のブーケトス。

「あたしもブーケ欲しい!」とジニーは前に飛び出して行った。

「あの子、意味わかってるのかしら…」

”花嫁の投げたブーケを受け取った人が、次に愛する人と結ばれる。”

花嫁のブーケにはそんなジンクスがある。

プルミエールが軽く溜息をつくと何時の間にか隣に立っていたロベルトがまぁまぁといった仕草をした。

「ジニーちゃんもお年頃なのさ」

彼の隣でグスタフが「花が欲しいだけでは…?」と言ったのをロベルトは完全に無視している(のか聞こえていないのか。)

「ところでプルミエールさんよ、あんたは行かないのか?ブーケを拾うならもっと前に行かないとな」

「そうね…」

適当に濁してグスタフの顔をちらっと見た。だがグスタフはそんな彼女の様子に気付きもしない。

そんな2人の様子を見てロベルトは苦笑した。

『やれやれ、こんな態度とられたら普通は気付くだろうにこの大馬鹿が…』

そうこうしているうちにいよいよブーケトスが始まろうとしていた。

サラがふわっと投げ上げたブーケを拾おうと女性達は歓声を上げて手を伸ばした。

が。

普段からディガーとして身体を鍛えているサラの腕は見かけは細くとも筋力は相当にあったらしく、

女性達が必死に伸ばした腕を軽々と飛び越えた。

そしてブーケを手にしたのは。

「え」

次の瞬間ブーケはプルミエールの腕に収まっていた。

プルミエールは女性の一団より少し後ろにいたはずなのだが。恐るべしサラの筋力。

それとも、サラが意図したものだったのだろうか。

プルミエールは反射的にグスタフの顔を見てしまった。彼と目が合い、慌ててプルミエールは目を逸らす。

 

「いいな〜プルミエール!」

はっと気がつくとジニーがプルミエール(の手にしたブーケ)を指をくわえて覗きこんでいた。

「次はプルミエールさんかよ!楽しみだな」

ロベルトはプライドの高いプルミエールを軽くからかったつもりだったがプルミエールにはもはや聞こえていない様子だった。

 

”花嫁の投げたブーケを受け取った人が、次に愛する人と結ばれる。”

ブーケのジンクスを信じて、ちょっとだけ勇気を出してみようとプルミエールは思った。

 

ちなみにブーケはおねだりに負けたプルミエールがジニーに譲ったらしい。

「花が欲しいだけでは…」と言うグスタフの予想は半分以上(むしろ全部)当たっていたのだった。


03/03/20

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