ある日の朝。
グラン・ヴァレの関所で金髪の女性と兵士が揉めていた。
側には銀髪を短く刈った青年が困ったような顔をして立っている。
「高すぎるわっ!!」
「でも規則は規則だ!」
このような押し問答がかれこれ20分ほど続いていた。
金髪の女性、エレノアは通行料が法外だ、と言うのだ。だが兵士も一歩も譲らない。
「エレノアさん」
銀髪の青年、サルゴンは兵士と言い合うエレノアに遠慮がちに声をかけた。
「エレノアさん」
2回声をかけるとエレノアはようやく振り向いた。
「ちょっと…」
エレノアはサルゴンに連れられて離れた所まで行くと唇を尖らせた。
「何なのよ!もう…莫迦にした金額ふっかけて。こっちの足元見てるんだわ」
「エレノアさん、あきらめて違う道を通りませんか?あんまり交渉に手間取るとここにもう一日足止めになってしまいますよ」
関所の無い山道を通れば金がかからない分時間がかかるし、モンスターも多い。それを知っていて通行料を高くしているのだ。
「うぅ〜…癪ね…でも仕方ないか…悔しい〜!!」
エレノアはすっかりご機嫌斜めだった。
「ついてないわっ!!」
山道を歩く事数時間。森を抜けて2人は一際眺望の良い所に出た。
「うわぁー!良い眺めね」
太陽が強く輝き、蒼い空がとても近く感じられる。手を伸ばせば白い雲が掴めそうな気さえしてくる。
「サルゴン!ここで休憩しましょ!」
「休憩ですか?」
声をかけられてサルゴンは軽く溜息をついた。けれどその顔には微笑が浮かんでいる。
ようやく、機嫌を取り戻したようだ。まるで子供みたいだ、とサルゴンは思った。
エレノアはサルゴンよりも20も年上だったが、こういう天真爛漫というか、無邪気なところがサルゴンは好きだった。
「ちょっと休むだけよ!」
そういうとエレノアは草の上に腰を下ろした。サルゴンも隣に座った。
「あ、見て見て、てんとうむしよ」
エレノアはその白い指先に花に乗っかっていた小さな虫をちょこんと乗っけてサルゴンに近づけた。
「エレノアさん、虫嫌いじゃなかったんですか?」
以前立ち寄った町の宿でゴキブリが出た時は真夜中に隣室のサルゴンに泣きついてきたし、
さっきも蜘蛛を見た途端大騒ぎして山道を走りだしたほどだ。
「てんとうむしは別よー」
エレノアは急にサルゴンの鼻先に指をつけた。てんとうむしはサルゴンの鼻の上にのそのそと移った。
「わ!!?」
サルゴンが驚いて首を振るとてんとうむしは予想していたかのように下で構えていたエレノアの掌の上に落ちた。
「あはは」
「びっくりした…なんか変な感触が鼻に…」
サルゴンが軽く息をつくとエレノアは言った。
「ダメよ、粗末にしちゃ。てんとうむしはお日さまの虫、幸運の虫なのよ」
「幸運の虫…」
サルゴンが反芻するとエレノアはにっこりと笑った。
「幸運の虫って言うのは私が勝手に考えたんだけどね。
でもお日さまの名前を持ってるくらいだから、この虫を見たら何かいい事ありそうな気がしない?」
「気分だけですか…」
「そうよぉ。でも気分だけでも前向きに行けばきっと良い事在るわよ」
サルゴンは頷いた。エレノアの言葉はいつでも前向きで、彼に元気を与えてくれた。それは先に進む力となる。
エレノアは小さな虫を元いた花の上にそっと戻した。
「さぁて、出発しようか。大分遅くなっちゃったわねー」
「…良い事」
「ん?」
サルゴンは言った。
「良い事、ありましたね」
「へぇ、早速いい事あった?」
「遠回りしたおかげで綺麗な空が見られました」
エレノアさんの機嫌も直ったし、とサルゴンは口の中で呟いた。
「おっ、前向きになったわね。そうねぇ…遠回りする事になったけど、おかげでこんな景色の良い所見つけられたんだから
あの意地悪な兵士にも少しは感謝してやるか」
腕を組んでわざと偉そうな素振りでエレノアはうんうんと頷いた。
サルゴンはそんなエレノアを見てくすっと笑った。
「さ、行くわよ」
2人は歩き出した。
バカップル?
03/03/17
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