メガリスビースト。

この不死身のモンスターがかつて人間だったことを知るものは少ない。

彼が人間だった頃、彼はウィリアムという名前だった。

 

ウィリアムは特別な才能も無い、平凡な男であった。しかし、彼には大きな夢があった。

 

『いつか、タイクーンと呼ばれるような最高のディガーになるんだ』

 

1247年にそのチャンスはやってきた。

ディガーのウィリアム・ナイツや妹のミシェーラ(その頃はラベールと名乗って仕事をしていたようだったが)達と共に氷のメガリスの探索に向かったのだ。

そこで見つけたものは、思念を実体化するクヴェル。彼はその前でありったけの声を出して叫んだ。

「俺は世界最高のディガー、タイクーン・ウィルだ!!」

しかし彼の姿はタイクーンウィルと呼ぶにはふさわしくない、あさましい獣の姿へと変わっていった。

クヴェルは彼の歪んだ心にふさわしい姿へと彼自身を変えてしまったのだ。

そして、彼はメガリスビーストとなった。もう彼には仲間の声も、最愛の妹の声さえも届かなくなっていた。

彼があれほど欲していたタイクーンの称号は、ウィリアム・ナイツに贈られた。

皮肉な事に、タイクーン・ウィルとなったのは彼の方だったのだ。

 

時は変わって1306年。タイクーン・ウィルの孫、ヴァージニア・ナイツは祖父の頼みを受けてヴァイスラントにある氷のメガリスに向かっていた。

「ジニー、頼みがある。儂の代わりに氷のメガリスに行ってウィリアムのアニマを救ってやってくれないか。

本来ならば儂が行くべきところなのじゃが儂はこのとおり年老いてしまった…旅はそろそろ無理なようじゃ…

だからジニー、代わりに行ってくれ。お前は強い。そして頼りになる仲間もいる。だから大丈夫じゃ。頼んだぞ、ジニー」

 

こうしてジニー、ロベルト、グスタフ、プルミエールの4人はメガリスに向けて出発したのだった。

4人がヴァイスラントの村に到着してからしばらくは猛吹雪が吹いていた。それはまるでジニーの訪れをメガリスビーストが拒んでいるように見えた。

吹雪が弱まった3日目の朝に、4人は雪原を抜けることに決めた。

 

「しっかし、そのメガリスビーストとやらのアニマをどうやって救うんだよ?」

雪原を歩きながらロベルトがぼやいた。

「そんなのわかんないよ。でも、おじいちゃんの頼みだもん…」

ジニーは反論したが、正直彼女自身もどうしたらいいか皆目見当もつかなかった。ジニーはこんな事を頼んだ祖父の真意を計りかねていた。

かつて人間であったとはいえ、今は獰猛な化け物であることに変わりは無い。もう今更人間の心などすずめの涙ほども残っていないだろう。

しかし、グスタフをはじめとした仲間達は「ジニーならば、ひょっとして」と言う期待も抱いていた。

何故なら彼らは見たからだ。弱冠15歳の少女がエッグを倒すと言う奇跡を、この目で。

 

「着いた…みたいね」

プルミエールが白い息を吐きながら呟いた。

氷河の向こうの、氷で出来た建物。まるで御伽噺で氷の女王が住んでいるような、神秘的な雰囲気。

「うっわー、綺麗!」

先刻までの途方にくれた気持ちはさっぱり忘れて、ジニーは思わず叫んだ。

「…なんて浸ってる場合じゃないようね」

プルミエールがビーストランスを構える。

「早速お出ましか」

グスタフもファイアブランドを握る手に力を込めた。

「来た!!」

メガリスから黒い獣が飛び出してくる。巨体に似合わない素早い動きだ。

「危ないぜ、ジニーちゃん!」

ロベルトがジニーを抱えて後ろに飛びのく。

間一髪、メガリスビーストは先ほどまでジニーの後ろにあった氷塊を体当たりで粉々に砕いた。

「うっわぁ…」

避けなければ、自分があの氷塊と同じようなバラバラの姿になっていたかもしれない。ジニーはごくりとつばを飲んだ。

「元気が良すぎるみたい」

「ここはやはり…」

グスタフとプルミエールが同時に飛び、間合いを取った。

先にグスタフが斬り込み、プルミエールがそれに続く。

「マルチ三段!!」

最強の剣技マルチウェイと最強の槍技無双三段の連携。

それをくらってもまだメガリスビーストは起きあがり、襲いかかってくる。

「さっきはよくもやったわね!」

ジニーは杖のクヴェル、ブリムスラーヴスを構えると樹のアニマを込めた。そしてブリムスラーヴスを振りまわしながら果敢にメガリスビーストに向かって行く。

「疾風打!!」

ジニーが渾身の力を込めて打ち込んだ瞬間、メガリスビーストが炎に包まれた。

ロベルトがジニーの技と同時に、炎の術、焼殺を放ったのだ。

「疾風殺」

とロベルトはジニーに親指を立てて見せる。

ジニーは微笑んだ。

流石に今の疾風殺が効いたのか、メガリスビーストは体勢を崩した。しかし濁った瞳はジニー達を睨み付けている。ジニーはそっと語りかけた。

「…ウィリアム…さん?」

その名を呼ばれて、メガリスビーストの動きが止まった。

「もう、いいでしょ?…こんなところで、たった一人で生きなくても…」

ロベルトが続く。

「あんた、最初っからひとりだったのか?…違うだろ!?」

メガリスビーストは濁った瞳でジニー達の方を見た。人間だった頃のかすかな記憶と、ジニー達の姿がほんの少し、だぶった。

…そうだ。俺にも昔、こんな風に仲間が居た。

人のいいウィル・ナイツ、礼儀正しいパトリック、無口だけど仲間思いのタイラー、そして最愛の妹ミシェーラ。

「けど、あんたの歪んだ心があんた自身をひとりにしちまったんだよ!!」

ジニーは首を振った。

「違う…みんな離れて行ったけど、あなたの事忘れたわけじゃないの。だから、あたしはあなたに会いに来た。

年月の流れは結果としてあなたひとりをここに残してしまったけど…だけど…あなたはひとりじゃないよ。

おじいちゃんも、おばあちゃんも、みんなあなたの事想ってるよ」

…ヒトリジャ、ナイ…

メガリスビーストは静かに目を閉じた。

 

「行っちゃった…」

ジニーは呟いた。

「もう身体の方は限界に来ていたんだろう。あいつをここに繋ぎ止めていたのはあいつのアニマだったんだ」

グスタフが返す。

ジニーは頷いた。

「あの人、次に生まれてくる時は幸せだといいね!…あたし達みたいに!ねぇ、プルミエール?」

プルミエールの顔を覗きこんでジニーが笑った。プルミエールもつられて笑顔になる。

「そうね」

ロベルトもグスタフも微笑んでいる。

ヴァイスラントの雪原に雪が舞い降りてきた。

 

ジニー達の冒険は、まだまだ終わらない。


開設当初からある作品。文章に子どもっぽさが目立つ。高2だもんな…

01/09/14

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