ある時、たまたまシュライクの街にいた時だった。
1人の男に声をかけられた。ルージュの仲間だった妖魔の男に。
『もし自分が兄に負けたらこれを兄に渡して欲しい』と、ルージュが頼んだものらしかった。
その古びた本…王国の聖典に挟まれた羊皮紙の切れ端を―――
彼の遺書を、見つけてしまった。
遺書
−foretellー
僕は死んだ。
僕は死んでいるはずだ。
君がこれを読んでいる頃にはね。
何故なら僕は「自殺」したからだ。
そう、君の手によって自殺したんだ。
自殺―――と言っても、僕には別段自殺理由も無い。
僕は決して、幸せじゃなかった訳じゃない。
ただ、僕は疲れたんだ。
幸せの中にある空虚さを埋める為の何かを求める事に。
僕―――「ルージュ」と言う仮面<ペルソナ>を作りつづける事に。
そして、何よりも…傀儡として生きる事に。
ねえブルー。僕達が何故争うのか、君は考えた事がある?
何もかもを犠牲にして術を得て、…その他に僕達は何を得た?
何も得てはいないんだ。
術を得る事は僕達の意志ではなく、王国の意志なのだから。
僕達は傀儡。やがては王国の礎となる、ただの傀儡。
王国のために生まれ、王国のために生き、王国のための犠牲となる。
それが僕であろうと君であろうと、他の誰かであろうと…構わない。
それに気付いて…僕は…嫌になった。
逃げ出したくなったんだ。
卑怯者の弟を、君は笑うだろうか。怒るだろうか…それとも、何も感じないのかな?
でも僕は…本当は凄く君に対して悪い事をしているのかもしれない。いや、したんだ。
ひとつは君を置いて逃げ出す事…死ぬ事。
自分が背負うのが嫌だからって、君に全てを押し付けた。
もうひとつは… …僕達はただの傀儡だと告げてしまった事だ。
知らなければそのまま、何の疑問も持たずに生きて行けたのに。
でも、真実は伝えておきたかった。そのせいで君が苦しむ事になろうとも。
そうだね…これは、この文章は…君に対する僕の…復讐心、じみたものなんだろうか。
無様だね。死のうと決めたくせに、それでも尚君に嫉妬しているのだから。
同じ顔をしながら、何もかも優れた君に。
この手紙は僕からのほんのささやかな復讐。
君の心に僕という存在が小さな棘となって残るように。
ふと窓から見下ろすと、眼下には紅い死人花<しびとばな>。
もういなくなってしまった弟の、澄んだ瞳を思わせる紅<あか>――――
ほもの方にあるのと対。
02/11/16
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