いつだって どこにいたって 貴方は綺麗

貴方のいるところだけ 空気も 景色さえも違って見えた

 

 

LIKE A ANGEL

 

降誕祭前夜。ルージュはたった一人息も白く凍るような三女神の大聖堂に居た。

深夜のミサが始まる前で、彼以外の人影は無い。紅く灯った蝋燭の灯火がゆらゆらとゆらめいて、細身な銀髪の青年の影を白い壁に映し出す。

それはひどく幻想的な光景で。彼が動くたび、乾いた靴音がこつこつと、回廊の向こうまで響いていく。

 

ルージュはじっと待っていた。

 

彼は本当に偶然に―――そう、偶然に…この場所に来ていた。

ここに来ていた理由らしい理由と言えば、余裕を持って降誕祭前夜の深夜のミサに来るつもりが早く来すぎてしまったから、というくらいだった。

蝋燭に照らし出される女神像の横顔はまるで生きているようだったし、壁のステンドグラスは灯火を反射して不思議な色を魅せていた。

ルージュは一通り歩き回ると静かに最前列の長椅子に腰を下ろした。

―――ミサはいつ始まるんだろう―――

蝋燭の薄明かりの中で吐き出す息が白いのがわかった。

「寒い…」

手にそっと息を吹きかけて、凍えた指先を暖める。

聖巫女に頼んで、教会の暖炉に当たらせてもらおうか。そんな考えが頭をよぎった。

そのとき、こつこつともう一つ足音が聖堂の中に響いた。

ルージュはぎょっとして振り返った。入り口の重たい鉄扉は開け放してある。

いつ誰が入ってきても不思議ではない。けれど、ミサが始まるのはまだ先なのに、来る人がいるだろうか?

ふと、ランプを持った人影がルージュの目に映った。白いローブを纏った青年。

結わえられた金髪は淡く輝き、ランプの光を映す瞳は蒼く清んでいて、氷のように綺麗だった。

その青年と目が合ってルージュは驚いた。

―――天使だ…

羽こそ生えていないものの、いつか宗教画に描かれていた端整な天使そのもののよう。

そしてその天使は、ルージュと鏡に映したように同じ顔をしていた。

その天使に、どこか懐かしい既視感を覚えながらルージュは静かに天使に歩み寄ってみた。

近くに寄ったら飛んでいってしまうかもしれない、或いは消えてしまうかもしれない。

そんな風に思いながらもルージュはその天使に触れてみたいと思わずに居られなかった。

手の届く側まで行ってすっとその鈍い金に輝く髪に触れてみた。

髪はさらさらと、逃げるようにルージュの掌を流れ落ちた。

「あ…」

―――この人は…

ルージュが声を漏らすと、わずかに眉を歪めた天使が清んだ声で喋りだした。

「お前…誰だ?」

突然髪に触れた事が天使の不興を買ったのだろうか。ルージュは身を引くとすっと頭を下げた。

「突然ごめん…君があまりにも綺麗だったから。僕はルージュ。術士の卵だ」

にっこり笑ったルージュに天使は答えるでもなく、ただ氷のように冷たい微笑を返した。

それは確かに敵意…だったけれど、ルージュはその凄絶な美貌に息を呑んだ。

―――なんて綺麗なんだろう。

天使は踵を返し、去っていった。ルージュは追う事も出来ずにただ立ち尽くしていた。

 

ルージュはその金髪に触れた手を見つめた。彼はあの髪に触れた瞬間、理解したのだ。

この懐かしい既視感は、天使が彼と一つの魂を分けあった者同志だから。そうだ、天使は間違いなく双子の兄ブルー。

『君のその白い羽を毟り取って籠に閉じ込めて僕だけのものにしてしまいたい』

ルージュは昏く笑った。

 

「いつか、そう遠くないいつか。僕は君を捕まえてみせる」

 


クリスマス企画モノ。

03/12/24

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