093:Stand By Me

 

やせっぽちのフリンが背伸びをして、ギュスターヴの髪を押さえその上の木肌にナイフで線を引く。

「次はレスリーね」

グリューゲルのとある小川沿いにある大きな木。そこには既に2つの、ナイフで付けたキズがあった。

1つのキズの側には『K』の文字が彫られている。今付けたキズの側にフリンはナイフで『G』と彫りこんだ。

レスリーは木の根元に踵を付けると、ぴんと背筋を伸ばす。

「おい、背伸びしてるだろ」

「してないわよ」

レスリーはギュスターヴの因縁に唇を尖らせると、もう一度姿勢を正した。

「よしっ、線を引くよ」

フリンはさっきと同様レスリーの頭のてっぺんの髪を押さえ、木肌にナイフで線を引いた。

レスリーが木から身体を離すとフリンはそのキズの側に『L』と急いで彫りこんだ。

そして3つのキズの高さを比べると、フリンは頷いた。

「うん、ケルヴィンが一番背が高いね」

『K』の彫られたキズと他のキズとの高さの差は、4、5センチほどあった。ケルヴィンは「だから言ったろ?」と金髪をかきあげた。

「次は…微妙な差だけどレスリーかな?」

「嘘だろ!?」

フリンの言葉にギュスターヴが不満の声を上げた。

ケルヴィンに負けただけでも彼は不本意なのに、その上レスリーにも、とあっては彼の自尊心は傷つく。

「はかり間違いだ!」

挙句フリンのせいにしてフリンのしっぽ髪を引っ張る。

「痛い、痛いよギュス様〜」

それをケルヴィンが止める。

「お前はどうしてすぐ暴力で話を片付けようとするんだ。だったらレスリーと直接比べてみればいいだろ?」

ケルヴィンの言葉に従って、ギュスターヴとレスリーは背中を合わせて立った。

「ギュス様、背伸びしてる」

「してない!」

ギュスターヴは不満げに頬を膨らませるがケルヴィンにも同様の指摘をされしぶしぶ直す。

その2人を比べてケルヴィンとフリンはしばらくしたあと、口を開いた。

「…レスリーだな」

「レスリーだね」

そう言ってケルヴィンはレスリーの頭からすっと掌を滑らせる。

けれどその掌はギュスターヴを掠めなかった。髪に僅かに触れただけだった。

「…〜っ!」

今度こそ事実を痛感した彼は悔しそうに歯噛みした。

誰の身長が高いかなんてどうでもいい事の様に思えるが、彼ら子供たちにとっては結構重要な問題だ。

誰かより少し高いというだけで急に偉くなったような、妙な優越感に浸る事が出来る。

レスリーはくすっと笑ってぽんっとギュスターヴの頭を叩きながら言った。。

「ふふ、ギュス、悔しかったら毎日牛乳飲んで、嫌いなほうれん草もちゃんと食べなさい」

子ども扱いされたように、からかうように言われてもギュスターヴは反論できなかった。

「う、うるさいっ!!」

 

 

数年後のテルム。

バケットヒルの戦いに勝利し、ギュスターヴ達がテルムに落ち着いて1月ほどたったある日。

レスリーは調べ物をするために蔵書室に来ていた。

目当ての本は見つかったが、あと少しのところで手が届かない。背伸びしても僅かに指先が触れるだけだ。

部屋の隅にある踏み台をとりに行くのが億劫で、彼女が何度目かのジャンプにチャレンジしようとした時、後ろからすっと手が伸びた。

「この本でいいか?」

声の主はいとも軽々と彼女の目当ての本を本棚から抜いて見せた。

振り返るとギュスターヴが紺色の表紙の本を片手に立っている。

「ん」

本を差し出すので、レスリーは「ありがとう」といって受け取ろうとした。

が、ギュスターヴはその差し出した本をそのまま頭上高く持ち上げ、腕をめいっぱい伸ばしてレスリーの届かない位置に掲げた。

「あ、ちょっと!」

レスリーは抗議の声を上げ、ギュスターヴの肩に捕まってジャンプし本をとろうとするが、先ほどの本棚よりもギュスターヴの手は高い位置にある。

届くはずがない。何度かジャンプしてレスリーはぷっと頬を膨らませた。

「もう、いじわる!」

「はははっ」

ギュスターヴは笑って本を胸の高さまでおろし、今度こそレスリーに渡す。

「なぁ、昔グリューゲルにいた頃みんなで背比べをしたの、覚えてるか?」

レスリーは少し間をおいて答えた。

「…覚えてるわ」

ギュスターヴは頭の後ろで手を組むとにぃっと笑う。

「俺さ、あの時レスリーに負けたの悔しくてあれから毎日ずっと牛乳飲んでたんだ。

ほうれん草も無理やり食べた。おかげで今は好物みたいだよ」

「で、こんなにでかくなりました、って?」

レスリーはくすっと微笑んでギュスターヴの額にとん、人差し指を当てた。

「まあな。今はケルヴィンよりも背、高いぞ」

自慢そうに腰に手を当て胸を張るギュスターヴは、背は大きくなっても少年のようだ。

「レスリーは背、縮んだんじゃないのか?」

「ばかっ」

昔はギュスターヴをからかったのに、今はいいように遊ばれてる。

「ねえ、じゃあついでにその本も取って」

「これか?」

すぐ隣の本をギュスターヴは造作もなく取り、レスリーに渡す。

「隣も」

「んぁ?」

訝しげな顔をしながらギュスターヴは本を取って渡す。

「その隣も」

ギュスターヴは言われるままに本をとってやるが、訝しさは拭えない。

彼女の選んだ本は『テルムの歴史』『美味しい手作り菓子』『ペッグの生態』『クヴェル‐その神秘』だ。脈絡がなさ過ぎる。

こんなに適当に仕舞われているのに蔵書室の整理も命じない、いいかげんなにわか城主もいけないのかもしれないが。

「こんなに読むのか?」

「読まない」

さらりと答えたレスリーにギュスターヴはがくんと脱力する。

「この本だけでいいの。しまって」

レスリーは菓子の本を手元に残し、残りをギュスターヴに渡す。

「あのな…なんだってこういうつまんない事するんだよ」

『いて欲しいから。忙しいあなたを今私のためだけに、ここに繋ぎ止めておきたいから。…側に立ってて欲しいから』

レスリーは心の中で呟いた。

いつの間にか随分と伸びた手足。あの時ぽんぽんと叩いてバカにした頭は随分と高いところにいってしまった。

すっかり大人の男の顔つきになった横顔に鼓動が高鳴る。日に透ける柔らかい金髪に思わず背伸びして触れたくなる。

「…でも本音は絶対言ってあげない」

レスリーはぼそっと呟いた。

「ん?」

本をしまっていたギュスターヴがちらりとレスリーを見る。

レスリーは何事もなかったかのように指をふわふわの茶髪に絡ませた。

本音を言ったら、彼は勝ち誇ったような笑みを見せてからかうに決まってる。そういう男なのだ。

からかいつつもぎゅっと抱きしめてくれるだろうけど、それはなんだか癪だ。

「な、菓子作ったら俺にくれる?」

「さぁー…どうかしらっ」

素直じゃない2人の初恋が実る日は随分と遠そうだ。

 


子供時代はケル>レスリー>ギュス>フリンなんだけど、大人になるとギュス>ケル>レスリー≧フリンって感じ。
グリューゲル時代くらいの年の子供って、女の子の方が発達早いから背も高い事が多い。

04/01/27

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