081:High Heels
コツ、コツと高い足音。ティファのハイヒールだ。
格闘家のティファは普段はあんまり着飾らない。
今流行っているような華奢な靴だとかひらひらした服、細かい装飾品は激しい動きの武闘には邪魔なんだろうって事はあたしにだって容易に想像がつく。
けどたまに戦闘が無い時…例えば休息の時、どこかの街に足止めを食らった時…ティファは女のあたしがドキッとするほど女らしく着飾ってる。
ボーイッシュな普段とのギャップかもしれない。エアリスが女らしい格好で着飾ってても、似合うんだけど普段と同じ感じがするから。
ティファは美人でスタイルよくて、流行のフリルのついたキャミソールや透け編みのニットやリボンのついた華奢な靴や、
そういう女っぽいの絶対に似合うのに普段はそういう格好あんまりしないから、逆に女らしくしてると新鮮なのかも。
とりわけ、あたしはティファのハイヒールに憧れてた。ティファのすらっと長い足によく似合うシルバーのハイヒール。
歩くとコツコツと高い音がしてすごく大人っぽい!その靴はティファの長い足を更に長く魅せていた。
「ねえ、ティファ、お願いがあるんだけど」
飛空挺のメンテナンスで何日かロケット村にとどまる事になった時、あたしは思い切って宿の窓辺で本を読んでいるティファに切り出してみた。
「なあに?」
肌寒い今日、ティファは白いカーディガンにワンピースにスパッツ、そしていつものシルバーのハイヒール。
顔のサイドで縛った髪が大人っぽさを引き立てる。
「あのさ…その靴」
「靴がどうかしたの?」
ティファは組んでいた足を解いて、自分の足元に目をやった。
「貸して欲しいんだけど…ダメ?」
あたしは上目使いでティファを見た。
「いいわよ。今履くの?」
「うん!!」
あたしの顔がよっぽど嬉しそうだったのかティファはつられたように笑顔になった。
ティファは違うラウンドトゥの靴を荷物から出して来て履き替えると、ハイヒールを私に差し出した。
「はい、どうぞ」
にっこりと笑うティファにあたしも笑い返した。
「ありがとう〜!!」
あたしは早速その靴を履くと外へ出かけた。
コツコツと高い足音はまぎれもなくあたしの足音。急に大人になったみたいで嬉しい。
店に入ると銃の品定めをしていたヴィンセントと、一緒にいたケットシーが振り向く。
そして「おや」と意外そうな顔をする。
「その靴音はティファだと思ったが…」
ヴィンセントはあたしの足元に目をやる。ケットシーが顎に手を当て、しげしげとあたしを見つめた。
「いや〜、その靴履いてますと、ユフィさん大人に見えますわ〜。よう似合いますなぁ」
“大人に見える”。その一言が聞きたかった。嬉しくなってあたしはあちこち、村中を歩き回った。
シエラさんにも「ユフィさん、今日は何だか大人っぽいですね。素敵ですよ」なんて言われてあたしはすっかり舞い上がってた。
その夜。
「痛、痛い〜!」
あたしはひどい靴ずれとマメと筋肉痛で音をあげていた。
自分の靴じゃないから合わないのは当然なのに、それで長時間歩き回ったために痛みはひどくなっていた。
ティファが塗ってくれる消毒薬がものすごく沁みて痛む。思わず涙目だ。
銀のハイヒールの内側はほんの少し血の染みがついちゃった。
「ごめんね、ティファ…」
あたしのわがままが元で、褒められて調子に乗ってこんなになった挙句、ティファの靴まで汚しちゃってあたしはしょげ返った。
ティファは首を振った。
「ううん、構わないわ。まだ履けるもの、気にしないで」
ティファはあたしの靴擦れにテープを貼ると、今度は痛むふくらはぎのマッサージを始めた。
ベッドに座り込んで足をティファに揉んでもらいながら、あたしは情けなくて何も喋れなかった。
沈黙の流れる居室で、ティファがポツリと呟いた。
「今度…一緒に買いに行きましょ?ユフィの足にぴったりの素敵な靴を」
あたしはその言葉に元気よく頷いた。
「うん!」
ティファと一緒に買いに行ったら、今度はあたしのためのハイヒールを買おう。
傷だらけでテープがぺたぺた貼ってある足を見ても、あたしは懲りずに…やっぱりハイヒールが欲しい。
このくらいの年頃の女の子って結構「大人っぽく見られたい」と思うんじゃないかと思って。
04/01/09
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