077:Missing Lefthand

 

「ダイン!! 離すんじゃねえぞ!!いいか!! 村へ帰るんだろ!!」

銃声が響く。彼の命はお互いの腕一つにかかっている。力だけでなく、友と言う絆で繋がれたバレットの右腕とダインの左腕。

ダインの足元には大きく裂けた闇。落ちたら間違いなく生きてはいないだろう、深い深い谷底。

「ああ…離すわけねえ…俺たちの村に帰るんだ… …みんなが待ってる…

エレノアが…マリンが…俺たちの帰りを……」

けれどそこで鉄の銃弾の雨が二人の腕を穿ち、ダインは谷底へと落ちていった。

 

かろうじて命は助かった。だが、ダインは左腕を失った。左腕と同時に彼は何もかもを失った。

「この世界にはもう何もないんだ…コレル村も、マリンも、エレノアも…」

何もかもを失った彼は希望をも失った。空っぽになった彼には代わりに絶望と狂気と神羅への憎悪が宿った。

友と繋がれた左腕とを失うと同時に、彼は友との絆も失った。

「あいつのせいで…あいつが… あいつだけは一緒に炭鉱を守ってくれると信じていたのに、あいつが…魔晄炉なんざに賛成したから…!」

 

ぼろぼろになってベッドに横たわった彼に小さな声が聞こえる。

『……………で』

『バレットを、うらまないで』

非情な企業によって焔に焼かれて死んでいった妻の、懐かしく細い声が響く。

『お願いだから、バレットを恨まないで』

彼女が残したたった一つの望みなのだろうか。

ベッドの上で友を呪うダインの声が今は亡き妻に届いたのだろうか。

「わかったよ、エレノア…」

彼は瞳に昏(くら)い焔を灯しながら妻の言葉に耳を傾けていた。

 

かつては友と繋がっていた左腕には、手術によって銃が埋め込まれた。

他を傷つけ、命を奪うための道具である銃が。

「バレットを恨むのはやめだ。あいつ一人恨んだってどうにもならんさ。

こんな狂った世界、壊してしまえばいいんだ。この世界のすべてを。

与えられるのは銃弾と不条理… 残されるのは絶望と無の世界」

彼は失われた左腕の銃を掲げると誓った。

「…そして最後には狂った俺自身さえも」

黒い銃身が、ぎらりと鋭く光った。

 


04/01/26

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