時々、欲しくてたまらなくなる。
058:Flight Feather
あまりに綺麗な女性(ひと)だと思った。
それは恋愛によくありがちな、相手を美化する事だったかもしれない。
それだとしても、彼女は綺麗過ぎた。
白くて透き通った雪のような肌。
流れるような毛先の銀髪は長めのウルフに切られていた。
魔晄を浴びたはずなのに橙色を残した右目は夕焼けの色にも似て。
反対に左目は魔晄の色に染まって、淡い翠に輝いていた。
線の細い整った顔立ち。長い睫毛。
引き締まった筋肉がついた長い手足はそれでも細くて、とても剣を振るうものの体つきには見えなかった。
薄くて細い身体で、透明に澄んだ声で話し。
氷のように、硝子のように。美しかった。
望んでも手に入る事は適わなかった。
彼女の視線の先にはいつだって端整な顔立ちのアッシュブロンドのソルジャーがいて、その男は賢くて優しくて強かった。
尊敬するに値する人物で、俺自身も深く尊敬もしてたし信頼もしていた。
入り込む隙間もないほどに完璧で、幸せな恋人達。そんな女に、俺は惚れてしまった。
アッシュブロンドのソルジャーの隣で、彼女は普段見せないような顔で微笑み、彼の名を呼ぶ。
クールで気が強くて人に甘えたりしない彼女が、彼の側でだけは花開いたように鮮やかで。
あの男(ひと)だけが彼女の身体に触れて、彼女の唇に触れて、彼女を愛する資格を持っている。
それだけの資格に見合うだけの資質を持っている男(ひと)だった。
俺には決して与えられる事のない資格。彼女を抱く事も、愛を告げる事すら赦されない。
お互いが一枚ずつの翼を持っていて一緒でなければ飛ぶ事の出来ない、神話の比翼の鳥の如き2人を祝福する気持ちと共に、
羨ましく…そして妬ましく思う気持ちが俺にはあった。
俺 ハ 飛 ブ 事 モ 出 来 ズ 空 ヲ 見 上 ゲ テ イ ル ダ ケ ノ …
ある日突然、2人を見ていたら得体の知れない感情が押しあがってきて、これではマズイと思って…
その感情を忘れ去るために、浴びるほど酒を飲んだ。
いくら飲んでも気持ちよく酔えなくて…真っ暗な自室の壁に凭れて酒を煽る俺はたまらなく惨めだった。
「ザックス?」
開いたドアから廊下の光が差す。程なくして部屋の明かりがつく。
「様子が変だから…何かあった?」
床に座り込んでいる俺を見下ろす彼女の瞳は、やっぱり恋人の後輩を見る目であって。
すっと屈み、俺のグラスの匂いを嗅ぐ。
「随分とキツイの、飲んでるのね」
俺には酒の匂いなんて感じない。俺に感じるのは彼女のふわっとした女の香り…
俺はぐいっと彼女を抱き寄せた。
「っ!」
「ごめん…」
彼女が一瞬身体を硬くさせたのに気づいて俺は意味もなく詫びた。
「ごめん…今だけはこうさせて」
自分でも呆れるほどの、情けない声が絞り出された。
誰にも邪魔されない、2人だけの空間。今だけ時が止まったようで。
かろうじて理性が残っていたから良いようなものの、そうでなかったら俺は彼女に何をしていたか。
俺は彼女の肩にそっと顔を埋めた。彼女は黙って抱かれている。
けれどアッシュブロンドのあの男(ひと)にするように、彼女は抱き返してくれない。
それが少し切なくて、胸をちくりと刺した。
少し早い彼女の鼓動が伝わってくる。ぬくもりが伝わってくる。
けれど彼女のそのぬくもりは俺のものじゃない。
…このまま彼女の風切羽をむしり取って、飛べなくしてしまえたらいいのに。
醜い嫉妬に駆られた俺と、空を見上げていてほしい。
到底適わぬ事だけど。
せめて今だけは、俺のものでいて。
ザックスにドリームある方はごめんなさい 彼が 意外と叶わないような恋愛をしていたらもえる
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