私は月。どんなに望んだって太陽にはなれやしない。
052:The Moon In The Noon
いつだって、彼女は光を放っていた。
暖かくて、元気で、輝いていて…みんなに必要とされていて。
暗かった夜にぱっと光を与えるような、寒々しかった空気にふわっと暖かみを与えるような、そんな少女。
愛される事を当たり前のように受け止める事が出来る。愛を、元気を、皆に振りまく事が出来る。
生まれ持ったその光で全ての人をひきつける。
その姿は太陽のよう。亜麻色の髪は輝くばかりの陽の光にも似て。
尊敬する一方で羨ましくて、少し妬ましかった。
私は月。青白く病的で、静かに…自ら輝く事も出来ず、太陽の光を受けて光るのみの存在。
その僅かな光すら、周りの星々の光にかき消されてしまいそう。
冷たく輝くだけで人にぬくもりを与える事も、光を与える事も出来ない。むしろ刺すような印象を与えるその光。
夜に留まるが相応しいのに、昼にでしゃばろうものならその姿はあっという間に太陽のまぶしいまでの光ににかき消されて霞んでしまう。
「ジニーって太陽みたいね」
ふと、漏らしたそんな言葉。彼は黙って聞いている。
「…私は…まるで、月…」
それに比べて、という言葉を飲み込んでかろうじて残りの言葉を搾り出す。
比べたってどうにもなるものではないとわかっている。私と彼女は違う。ただそれだけのことなのに。
「月でも、いいだろう」
ふと顔を上げると、彼の瞳が私を捉えていた。私の姿が、彼のブルーグレーの瞳に映し出される。
「昼に大地を照らすのに太陽が必要なのと同じように、夜の暗い道を照らすのには月がいる。
どちらが優れているとは言えない。太陽に焦がれるものもいれば月に焦がれるものもいる。
月はどこか控えめで、けれど闇を照らし優しく受け入れる。暗い夜にたったひとつの光を失わないように、健気に輝いている」
私はぎゅっと掌を握った。ほんの少し、頬が熱くなった。それが欲しかった言葉なのかもしれない。
月である事は悪い事ではない。月と太陽と違っていていいのだ、と。
「…俺は月が好きだ」
ぼそりと呟く金髪山羊頭の青年は、私の紅い髪にそっと触れると、唇を寄せた。
みんな違ってみんないい。
04/01/18
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