025:A Throat Care Candy
乾いた咳の音が部屋に響く。
ソルジャーと兵士のミーティング中。
上官が何か説明しているが、咳の音でかき消されてよく聞こえない。
咳は一度しだすと止まらない。抑えようとしても喉が熱くなってたまらず咳き込んでしまう。
この会議の席で少々迷惑なのは判っているがどうにもならない。
生憎と咳をした張本人…クラウドは今日飴も何か喉を潤す飲み物も持ち合わせていなかった。
クラウドは口元を押さえながらちらりと時計を見た。
まだミーティングは始まって10分。あと50分はあるであろうミーティングの間耐えられるだろうか?
ちょっと抜け出して飴なりコーヒーなり買ってくれば少しはこの咳も落ち着くだろうが、
生憎この部屋は入り口は一つしかなく、よりにもよって前に立って話している上官のすぐ側だった。
これでは外に出るのははばかられるというもの。
口元を抑えてのどの熱が収まるのを待っていると机の上を滑るように5個入のレモン味のど飴が彼の元に届いた。
破かれて一つ飴が抜かれたパッケージにはペンで「Zacks」の文字が書かれている。
少し離れたソルジャーの座っている机を見やるとザックスと目が合った。
ザックスは軽く目配せした。普通はこういう時目配せで返すのだろうに、クラウドはザックスと目が合うなりぷいっと目を逸らす。
しかし心の中では感謝しながら机の下で飴の紙を破き、一つ口に放り込んだ。
甘酸っぱいレモンの味とすっと冷たい感じが喉に癒しを与える。
なんとか50分持ちそうだ、とクラウドは思いながらやっと今日配られた書類に目を落とした。
「他に何か質問のある者はいるか?…では、今日のミーティングはここまで」
ミーティングは5分長引いたが、あれ以降クラウドの咳が上官の言葉をかき消す事もなくミーティングは無事終わった。
ソルジャーや兵士達がぞろぞろと引き上げていきミーティングルームにはクラウドとザックスの2人だけが残った。
「あ、ありがと」
クラウドはやっとぎこちない感謝の言葉をザックスに言った。言葉と一緒に、2つだけ残った飴をザックスに返す。
ザックスはそれを受け取り、まじまじとクラウドの顔を見て物言いたげにしていた。
「…なんだよ。俺の顔に何かついてるのか」
クラウドは憮然とした表情でザックスを見上げた。
ザックスは笑顔でクラウドを見下ろすとクラウドの口を指差した。
「これ返すならそれも返せよ♪」
「な… …っ…」
刹那、唇を奪われて舌を差し入れられ、思わずクラウドはザックスの肩を押し戻そうとした。
けれどザックスはクラウドの頭を掴んで更に口付けを深くしていく。
そのうちに、ザックスの肩を押し戻そうとしていたクラウドの手はいつのまにかザックスのセーターを掴んでいた。
「…っふぁ…」
甘い吐息を残して唇が離れた後に、ザックスの口の中で微かにコロン、という音がした。
さっきまでクラウドの口の中に入っていたのど飴。仄かにレモンの味が舌に残る。
ザックスは掌の上に乗ったのど飴の残りの2粒を見てくすっと笑う。
「こんなもん、貰っちまえばいーのに律儀に返そうとすっからつい意地突っつきたくなっちまった」
人の悪い笑みを残してザックスは部屋を出ようとする。
我に返ったクラウドは抗議の声を上げた。
「ばっ…!そんな、あんなことしたらあんたに風邪うつって…」
「クラウドの風邪なら何度貰ったっていいぜ?」
どうせ夜にうつされるかもだし、と呟いてザックスはドアを開けた。
クラウドは真っ赤になったが次の言葉が出てこない。
ザックスはそれを見るとにっと笑ってドアの向こうに消えていった。
レモン飴の微かな香りを残して。
ザックラ。
04/01/08
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