016;Siamese Twins
瓦礫の散らばる回廊に足音が響く。
身をやつすようにフードのついたマントを身に纏うその青年、ブルーはゆっくりと、新生児室の扉を押し開けた。
「地獄」が消えた時、何とか生還する事は出来た。自分のいた空間が消えたというのに、生き残っていた事が奇跡だと思う。
けれど地獄の君主との死闘、それに一つの空間がなくなるというその時に生じた計り知れないエネルギーは確実にブルーの身体を痛めつけていた。
その証拠に、日に焼けない白い肌には痛々しく包帯が巻かれている。顔の半面にまで及んだ白い包帯は、片目を覆い隠していた。
外では崩壊したリージョンを立て直すべく術士達が懸命に復興作業を行っている。
生き残ったとは言っても、多大なダメージを受けたブルーの身体は確実に死に近づきつつあった。
ブルーはもはやこのリージョンに未練はなかった。ここではない、どこか遠いリージョンで残された時間を静かに暮らそうと思っていた。
けれどあの崩壊の日、ここで死んだ述士達に託されたこども達の事が気になって彼はわざわざこうして、ぼろぼろの身体を引きずってここまでやってきたのだった。
あの日見たままのように、こども達は水槽の中を静かに浮き沈みし、水槽から出る日を待っていた。
外で懸命に作業している術士達はこのこども達を省みないのだろうか。
…否、もはやここにこども達がいることすらもう知っている者はいないのかもしれない。
新生児達はこのまま人々に忘れ去られて…未来永劫ここで生まれ出でる日を水槽の中でただずっと夢見続けるのだろうか。
ブルーは空色の瞳をすっと細めた。そこに並んだいくつもの水槽を黙って見つめる。
ふと、ブルーはある水槽に目を留めた。
その水槽の中で浮き沈みする双子―――その双子は互いの片腕が結合していた。
いわゆる「シャム双生児」と呼ばれる双子である。
ブルーは包帯の巻かれた腕をマントの下から差し出して、そっとその水槽に触れた。
その双子の結合した腕は、お互い寄り添って手を繋いでいるように見えた。
ブルーは目を伏せた。
今まで殺しあう運命を強いられてきた王国の双子達…
その闘いの時代が終わった時に、このような双子が生まれたのは必然なのだろうか?
彼らはその身体が示すようにお互いに手を繋いで…ともに生きていけるのだろうか。
ブルーは水槽に軽く触れた手を離すと、包帯の巻かれた指先を組んで祈りを捧げていた。
それは―――もう死んでしまった者達を悼む祈りか、それともこれから生まれ出でるこども達の幸多い未来を希う(ねがう)祈りか。
コツコツと高い靴音が近づいてきた。
ぎぃ、と軋んだ音を立てて扉が開く。
「あ…!」
扉の向こうから現れた女性はブルーの顔を見て驚きの声をあげた。
「貴方は王国を救った、術士ブ…」
彼女の言いかけた言葉を遮るようにブルーは手を広げて前に出すと、すっと頭を下げた。
「…このこども達を、どうか…頼む…」
これは死に逝く者の願いだから、とブルーは呟いた。
いつか…自分と弟と、仲間達の救ったこのリージョンでこのこども達が笑っていて欲しいから。
宙に印を切って彼はゲートの術を唱えた。刹那、ブルーの姿が掻き消える。
水槽のこども達と共に新生児室に残された女性は、しばらく呆けたように彼の居たところを見つめていた。
ブルーは結局死んだんじゃないかと勝手にED予想。
「これは死に逝く者の願いだ」は、「ユウナのスフィア」のキマリのところのセリフがとても印象的だったので。
03/11/30
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