014;A Video Shop

 

僕はビデオショップでアルバイトしている。

眼鏡にそばかす、背は低くはないけどひょろりとしていて何とも頼りない。15歳になったばかりだ。

この物騒な世の中で強盗にでも入られでもしたら僕は何も出来ない。

僕のバイト先の店はビデオだけじゃなく、CDや何かもレンタルしている。

メテオが堕ちた後の何かと大変な事が多い世の中、みんなの息抜きのためにもこういうお店は必要だ。

お客さんの評判も上々、給料も上々だ。そんな僕の最近の楽しみといえば―――

カランカラン…「いらっしゃいませ!」

そう、毎週週初めに訪ねてくるこの綺麗な女の人だ。

流れるような黒い髪、ぱっちりした瞳、微笑んでいる口元…胸も大きくて、短いスカートから覗く長い足は白く、ほっそりとしている。

彼女は何か飲食店を営んでいて、そこのBGMとしてこの店で曲を借りて流しているのだそうだ。

僕はそれ以来何が何でも週始めに休暇は取らない事にしている。

先週高熱を出した時だって這ってバイトに来たほどだ。

僕は思い切ってあの人にこの思いを打ち明けたい!

…けれど、彼女と顔を合わせられるのはあの人がカウンターにCDを持ってきて精算する一瞬だけ。

おまけに僕は、彼女の鳶色の目を見ると、心臓が跳ね上がって足が震えて何も言えなくなってしまうのだ。

これではいけない!

僕は何とか調べてあの人のお店を突き止めた。彼女のお店は美味いと評判のバーだった。

もしかして、このお店に行けば彼女と運良く話せるかもしれない。

お洒落な店は苦手だったけど、これも僕の一世一代の恋愛のため!

僕はある夜、あの人の店に思い切って行ってみる事にした。

ドアを開けると、楽しそうな声が響き、おいしそうな料理のにおいがした。

これが評判の彼女の手料理…僕は何故もっと早く店を調べなかったんだろうと後悔した。

お店がわかれば毎日だってあの人の手料理が食べられるのに!

「いらっしゃいませー」

笑顔であの人が迎えてくれる。

「あら…もしかして、よくいくビデオ屋さんの店員さん?」

お、覚えててくれた――――!

それだけで僕はもう天にも上る気持ちだった。

「いらっしゃい、どうぞこちらに」

一人ともあってカウンターに通された。あの人のすぐ側だ。ら、ラッキー!

…と、思ったのもつかの間。

彼女と親しげに喋る金髪の男が目に入った。

とてもカッコいい…というか、男の僕から見ても綺麗な顔立ちだなあと感心するほどだ。

美形と言うのはああいう人の事を言うのだろう。

そして、その光景と同時に耳に入った、オジサン達の言葉。

「ティファは良い男を見つけたなぁー。お似合いじゃねーか」

「美男に美女で絵になるよなあー」

予感はしてました…け、けど…やっぱり!?

 

恋人持ちだったんですね…(しかも美形)

 

頭が真っ白になった。

その後あの人に話しかけられたけど、何を話したかあんまり覚えていない。

せっかくの料理の味もうろ覚えだ。

 

傷心の僕が外に出ると、雪がちらついていた。

この雪の中帰るのが今の僕の心境にお似合いだ。

そう思ってとぼとぼと歩き出したその時、雪がふとやんだ。

いや、止んだんじゃない。

僕の上に傘が差されたんだ。

驚いて後ろを見ると小柄な女の子が、精一杯背伸びをしてひょろ高い僕の上に一生懸命傘を差している。

耳の辺りで短く切られてぴょんと跳ねた毛先を毛糸の帽子に押し込んだ、目のくりっとした女の子。年は…僕と同じくらいだろうか。

「あっ、あのっ!」

「はいっ」

僕はバカ正直な返事をして、すぐに自分でも間抜けだなあと思った。

けど、彼女はそんな事気にしちゃいない。

「あの…ビデオ屋さんでよく会いますよね?」

「はぁ」

へこんでいる僕は気の利いた返事一つ返せない。

「ずっと気になってたんですけど…よ、良かったら、今度一緒にゴハンでも食べに行きませんか!?」

「へっ?」

もしや…これはデートの誘いという奴だろうか。

こんな可愛い子が見ていてくれたのに気づかないなんて、僕は莫迦だなあ。

「は、はぁ、喜んで…」

 

冷たいだけに感じていた雪も、何だか綺麗に見えた。


03/11/25

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