007;A Broken Bow
まだ俺たちが幼くて…ただ無邪気に過ごしていればよかった頃だった。
「ねぇねぇ、サルゴン、見て!あんなに遠くのものにも命中するようになったのよ!」
遠くに置かれた、矢の刺さった木切れの的を指差して、グレタははしゃいだ。
俺は素直に感心した。
「すごいな。もう百発百中だな」
「そうだよ、だから…だからサルゴンが村を出て行っちゃっても…あたしがこの弓で皆を守るから…だから、後の事は心配しないで」
年の離れた妹のようだった。
幼い頃…村を出て行く前までは自分の後をちょこちょことついてきて、
大人になって村に戻ってきてからも何かと頼りにされていた。
「ねえ、村の近くにモンスターが最近増えてきたのよ。ちょっと退治した方がいいと思わない?」
そんな、グレタの一言から始まって…何故結末はこんな事に。
グレタの得意は弓だった。
弓を持たせればその辺りに居る男達よりもよっぽど強かった。
だから、彼女は自分で提案したモンスター討伐計画に自身も志願して…
「あ、頭が…」
ワッツが頭を抱えて蹲る。
グレタもぐらりとよろめき、そして2人の姿は…異形の、流動形の生物へと姿を変えていく。
「グレタ…ワッツ…」
気分が悪い。
口にしたその名も、2人の耳にはもう届かない。
「い、イヤー」
最後に聞こえたグレタの叫び。
いやだ、どうして、何故こんな事に。
俺も同じ気持ちだった。…胸が…痛かった。
「気分はどうだね、サルゴン君?」
男の声。さっき会った金髪の男。名は…ギュスターヴとか言っていたか。
俺は答えるでもなく素直にその場の感情を口にした。
「不思議だ… 力が漲っている」
先ほどの気分はどこへ行ったのか、身体には力が溢れている。
ギュスターヴは頷いた。
「そうだろうとも。お前が最も強かったのだ。お前は新たな力を得た」
最も強かった…俺が…犠牲になったあの二人より…
体が自分のものではないように感じるほどだったのと同様、意識もまるで自分のものでないように思えた。
勝手に口が言葉を紡ぐ。
「何なりとお命じ下さい、ギュスターヴ様」
自分の言葉が、どこか遠くから聞こえるように脳髄に響いた。
「私と共に進め。更なる力を得る為に」
小部屋をギュスターヴと共に出ると、そこにはスライムの大群がひしめいていた。
この中のどれかが、グレタとワッツなのだろうか。
今ならまだアニマを感じとれるかもしれない…そう思って目を閉じ意識を集中しようとした時。
「…目障りだな」
傍らのギュスターヴがぼそりと呟いた。
「え?」
その言葉に顔を上げた。ギュスターヴが冷たい笑みを見せる。
「ちょうど良い機会だ。先ほど与えた、お前の力を見せてみよ。灼熱の炎でこの薄汚い生物を焼き払え」
グレタやワッツに想いを馳せる俺の考えが読まれたのか、ギュスターヴは冷笑しながら命令した。
意識で命令を拒否しようとしても自然と命令を受け入れてしまう。
否、受け入れざるを得ないようにプログラムされているのか…
「はい」
俺は手をかざした。
みるみるうちに炎のアニマが凝縮されていく。
刹那、目の前に火柱が上がった。
「素晴らしい能力だな」
高熱でほとんど蒸発したスライムの群れを見、ギュスターヴは満足げに頷くと歩みを進めた。
「行くぞ」
俺は頷き、後に続いた。
ふと足元に目を落とすと、毀(こわ)れた弓。
「ねぇねぇ、サルゴン、見て!あんなに遠くのものにも命中するようになったのよ!」
焔に煽られ、焼け焦げ…それでも尚形を残した弓。
もういなくなったグレタの…
オ レ ガ コ ロ シ タ 、グ レ タ ノ
「…どうした?行くぞ」
ギュスターヴの不機嫌そうな声が響く。
俺は目じりに溜まった雫を振り払った。
「…申し訳ありません、ギュスターヴ様」
そして、俺は足を踏み出した。
もう二度と後戻りは出来ない、破滅の道へ―――――…
サルゴンは何故偽ギュスの言う事素直に聞いたのかなと思い。
オフィシャル設定は個人的イメージとそぐわないので補完。別にサルゴンxグレタとかではなく。
03/10/14
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