005;A Man Who Fishing At A River
かくれんぼ、鬼ごっこ、冒険…なんだって一人じゃ楽しくないよ
一人ぼっちの僕に出来るのは釣り糸垂らしているくらい
少年はその日も桟橋で釣り糸を垂らしていた。
大き目の毛糸の帽子からしっぽ髪を覗かせているそのやせっぽちの少年は小さな背中を丸めて、獲物がかかるのを待っていた。
少年の後ろの道を同じ年頃の男の子達が連れだって駆けていくが釣り糸をたらした少年には声をかけるどころか見向きもしない。
足音が遠ざかると、竿の先がぴくんと跳ねた。少年が勢いよく竿を引くと、魚が釣り針に掛かっていた。
少年は初めて笑みを見せると、歪んだバケツに魚を放りこんだ。少年の今日初めての獲物を賞賛する者は居なかった。
唯一その獲物を見ていたのは、少年の肩に乗っていた一匹の小さな蛙だけだった。
少年はまた釣り糸を垂らした。毎日この繰り返しだ。
少年には友達がいなかった。何故なら、彼は術不能者だったからだ。
少年の名は、フリンと言った。
術不能者の彼には友達がおらず、鬼ごっこもかくれんぼも長縄跳びも、一緒にやる仲間がいなかった。
いつもひとりぼっちの彼に出来る事と言えば、釣りくらいだったのだ。
フリンはふと振り返った。道の向こうにある、立派なお屋敷の方がなんだか騒がしい。
ナのスイ王という偉い人のお屋敷だと言う事は知っていた。
何日か前そこに誰かが引っ越してきたらしく、王様の家来からそこの住人を一目覗こうと思った子供たちまで
色んな人間が屋敷の方へ行ったり来たりしていた。
『あんな立派なお屋敷に住んでるんだからきっと偉い人なんだろうな』
偉い人は術を使える人。そんな図式が彼の中では成り立っていた。
否、おそらくサンダイルに住むほとんどの人がそう思っていたであろう。
ここグリューゲルもフィニー・メルシュマンほどでないにしろ術優位社会である事に変わりは無かった。
フリンはぼんやりと考えながらまた釣り糸を垂らした。
そのとき、ばたばたとフリンの後ろを走って通り過ぎていった少年たちの話す声がフリンの耳に届いた。
「東大陸の王族らしいぜ」
「王族のくせに術も使えないのかよ」
「見たところ結構年、近いんじゃないか?」
東大陸の王族…術が使えない…年が近い?
フリンの頭にはその3つのキーワードが残った。
『僕と同じ、術が使えない人なのか…友達になってくれるかな?でも王族じゃ、僕なんかとは話してくれないかな。』
何日か後だった。
フリンはいつもと同じように釣り糸を垂らしていた。
「おい、お前」
フリンは背後から突然少年に声をかけられて恐る恐る振り返った。
彼に声をかけるような者…まして少年は彼をいじめる事が殆どだったからだ。
しかし彼に声をかけてきたのは見た事も無い少年だった。
長い手足に見事な金髪、整った顔立ち、意志の強そうな瞳…どことなく気品があった。
「お前いつもここで一人で釣りしてるだろ。面白いか?」
金髪の少年はぶっきらぼうに言った。
「え、…」
おどおどするフリンに金髪の少年は更に問うた。
「お前…友達いないのか?」
フリンはうつむき加減にこくりと頷いた。
少年はそれを見ると芝生にどさっと腰を下ろし、ぼそっと呟いた。
「…俺もだ」
フリンはえっ、という表情をした。何を言葉にしようか迷っているうちに、竿に獲物が掛かる。
竿を勢いよく引き上げると魚が一匹掛かっていた。
ぴちぴちと跳ねる魚をフリンが歪んだバケツに移すのを見ながら少年は口を開いた。
「お前、よく釣れてるよな。あの窓からよく見てた」
少年はすっと指差した。つられるように指先を見ると、その先にはスイ王のお屋敷がある。
フリンは目を丸くすると少年に問うた。
「じゃあ、君があのお屋敷に引っ越してきた人!?」
「そうだ。名前は…ギュスターヴだ」
『この人が術の使えない東大陸の王族…』
フリンはまじまじとギュスターヴを見ると小首を傾げた。
「ギュス……様?」
貴族相手なので一応「様付け」してみたのだが、ギュスターヴはそれが妙に気に入ったようだった。
「ギュス様、か…! …お前、俺の子分になるか?」
「え!」
フリンは驚いた。
引っ越してきて数日、この街の事ならば耳に入っているだろうに術不能者の自分をさげすむ事も無く声をかけ、さらには子分にしてやるといってきた。
『この人なら僕の事を分かってくれるかもしれない…同じ…術が使えないから』
フリンは一呼吸おくと元気に頷いた。
「うん、僕ギュス様の子分になるよ!」
「よーし、じゃあ行くぞ、ついて来い!」
二人は連れ立って駆け出した。
いつも一人ぼっちで釣りをしていたけれど、もう一人じゃない。
これから釣りをする時は二人で仲良く並んで…そしたらただの釣りも、ずっとずっと楽しくなる。
グリューゲル時代。
03/10/07
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