002;Below Stairs

 

薄暗い螺旋階段は黴臭い臭いがする。今に踏み板が抜けるのではないかと思いながら、クラウドは階段を一段一段下っていった。

クラウド“達”と狂気に呑まれた元英雄を繋いでいた階段。“あいつ”はいつもここを一人で行き来し、クラウドはいつも上で人が来ないように見張っていた。

いつもどんな気持ちで階段を下っていたのだろう。

ひょっとすると手練(てだれ)の1stソルジャーでも殺されかねないような危険なところへ“あいつ”は一人で行っていたのだ。

いつかまた昔のように戻れると信じて、“あいつ”は階段を下っていた。そんな日は二度と来る事も無かったが。

 

薄暗い地下室。魔晄の瞳は夜目が効くが、それでも敢えてライターの火を灯して地下室を見渡す。

左側の小さな扉は棺が並べてある部屋だ。昔はこの部屋には気づいていなかった。

5年経って久々にこの地下室を訪れた時彼の―――クラウドの記憶からは大事なことが欠け落ちていた。

今は…過去を取り戻した今はわかる。ここに誰がいて、何が起こったのかを――――

 

正面の大きな扉を押し開ける。ぐちゃぐちゃに散らかった研究室。

無造作に積み上げられた本、中の液体が蒸発してしまったのか、結晶がこびりついている実験器具。

割れたガラスに、机の角についた赤黒い染み。

クラウドは無意識のうちに口元に手をやった。

 

これは血だ―――…

 

ぼんやりと思い出せる。クラウド“達”が逃亡するために犠牲になった研究員の血だ。

―――“あいつ”が殺した男の血だ。何も出来ない、俺を連れて行くために…

 

この階段がすべての始まり。

最後に階段を上った時、“あいつ”は何を思っていただろう。

―――…やっと自由になれると、希望を抱いて上っていただろう。

もうこの階段を下ることも無い、ここでの過去を捨ててもう一度生きられると―――

事実この階段を、あの日上ってから“あいつ”が下ることは二度と無かった。

 

 

死人(しびと)は歩くことなど出来やしない。

 

 

―――冗談だよ。お前を見捨てたりしないよ。…トモダチだろ?

死への階段をそれとは知らず、一段一段上り…そして“あいつ”は死んでいった。

この忌まわしい死への階段を、希望への階段だと信じて。

クラウドは螺旋階段を上りきると扉を開けた。神羅屋敷の汚れた窓から差し込む光すら暗所に慣れた目に眩しい。

クラウドは思わず目を覆った。

 

「クラウド?」

ティファの甘やかな声が響く。

彼女はここでずっとクラウドを待っていてくれたのだった。

「…クラウド?どうしたの?」

ティファはクラウドの顔を覗き込んだ。

手で覆われた、彼の伏せられた瞳から透明な雫が零れた。

「…大丈夫、ちょっと光に目が眩んだだけさ」

「…そう」

クラウドは目もとの雫を払うと一歩踏み出した。

「…すまない、行こうか」

 

屋敷は取り壊される事になったのだった。

忌まわしい死への階段を、クラウドももう上る事は無い。

 

そして“あいつ”も…もう、2度と―――


クラウドは親友を犠牲にして生き残ったという十字架を背負わなくてはならなくて、なにかにつけてフラッシュバックしてしまうだろうなと。
文中ザックスの名前が一度も出てこないのは意図的に。でも深い意味は無い。

03/06/29

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