壊れたプレートの隙間から陽が差し込んでいる。七番街の一角でクラウドは店の表のドアのプレートを『OPEN』に変えた。

ティファの経営する「ファイナルへヴン」の一角を借りてザックスとクラウドの二人は何でも屋をやっていた。

街の復興からボディーガードまでこなす“何でも屋”はザックスの人当たりの良さとクラウドの几帳面さ、

それに商談に使われる「ファイナルヘヴン」の料理や女主人ティファの気立ての良さも手伝って結構流行っていた。

「ファイナルヘヴン」は昼間はレストラン、夜はバーとして店をやっていた。

朝、まだ開店したばかりの人気のない「ファイナルヘヴン」のカウンターでクラウドとザックスは予定を話し合っていた。

「今日の仕事は…13:00から3番街で引越しの手伝いだろ、16:00からリーブの依頼で金の輸送の護衛、

19:00から依頼人サンと次の仕事の相談…でちょっと空いて、22:00からボディーガードで翌日1:00終了、と」

ザックスは簡単に仕事の内容をまとめたレジュメをカウンターの上に置いた。クラウドは軽い溜め息をついた。

「今日も深夜まで仕事…」

「そうゆーなって。今日は午前中オフじゃん」

そこへ出来立てのハムエッグが2人分、運ばれてくる。こんがり焼けたトーストにコンビネーションサラダも出すと

ティファは最後にコ−ヒーを出してカウンターに座る2人の向かい側に立った。

「今日も大変そうね」

「ん〜でも朝からティファちゃんの作ったメシが食えればそんな仕事、軽くこなせるよ♪」

「……」

ザックスの軽口にあきれながらクラウドはコーヒーをすすった。

「何でも屋の仕事いっぱいあるんだから、お店の方は無理して手伝ってくれなくても平気よ。ゆっくりしてて」

そういうとティファは、遅い朝食をとりにちらほらと来はじめた客の注文を聞きに動き始めた。

「…で、午前中はどーするか」

ハムエッグを乗せたトーストにかぶりつきながらザックスは尋ねた。

「ティファのお言葉に甘えてのんびりさせてもらおうよ。ここのとこ連日深夜までボディーガードの仕事じゃないか。いいかげん疲れが溜まってきた」

クラウドはトーストにバターを塗りながら答えた。

連日深夜までの仕事に早朝の仕事が重なって思うように休息が取れていなかったのだ。クラウドもさすがに疲れを隠せない。

それにザックスにはこたえていないように見えるが、彼だって疲れていないわけがない。疲労が溜まったままでは別の仕事にも影響が出てしまう。

「そうだな…今日の仕事はどれも体力使いそうだしな〜」

ザックスはレジュメに目を遣った。

 

朝食の後、再び人気のなくなったファイナルヘヴンではティファがせわしなく動き客の食べた後片付けをしていた。

ティファが客の注文の合間にさりげなくカウンターにおいていった葡萄をクラウドは丁寧に剥きながらザックスととりとめのない話をしていた。

ザックスは皮のまま葡萄を口に運んでいる。

カラン、とベルが鳴ってドアが開いた。新しい客だな、と思ったがクラウドは大して気にもとめなかった。

と、次の瞬間ティファの声が掛かった。

「クラウド、お客さんよ。何でも屋の依頼」

「え?」

ザックスとクラウドが振り返るとそこには小さな女の子がいた。こげ茶色のくせっ毛にキャスケットをかぶり、デニムのジャンパースカートを履いている。

「子供…」

クラウドは呟いた。

「で…依頼は何ですか、可愛いお嬢サン?」

ザックスがひょいと屈んで少女の顔を覗き込むと少女は急に泣きだした。

驚いたのはザックスである。『もしや自分が泣かせたのか!?』と焦り狼狽えた。

「あっ、あのね…『ショーン』が、『ショーン』がぁ!!」

少女はしゃくりあげながら大声で泣き出した。

 

「『ショーン』が、いなくなった?」

泣いている子供の扱いなどまるで慣れていない男二人がどうする事も出来ないでいるのを見かねたティファが助け舟を出し、少女はようやくしゃべり始めた。

話を要約すると『ショーン』というのは彼女の大切なくまの縫いぐるみで、それをなくしてしまったと言うのだ。

「それでね、何でも屋さんは何でもしてくれるって聞いたから、来たの…お金は…あんまりないんだけど…何でも屋さん、『ショーン』を助けて!」

少女が机の上に並べたのはプラスチックで出来た玩具の貨幣。ザックスとクラウドは顔を見合わせたが、もう一度お互いの目を見ると頷いた。

「…お引き受けしましょう」

あくまで大人の女性に対して依頼を引きうけるようにザックスは丁重に答えた。

「じゃあ、まず『ショーン』はどんな特徴のクマか、教えてもらえますか?」

尋ねるクラウドに少女は答えた。

「あのね…茶色いおっきなクマで、男の子で、目があどけない感じなの…」

これにはさすがのザックスとクラウドも考え込んだ。

まず子供の「大きい」というのはあまり当てにならない。子供の表現はいつでもオーバーで、更にその身体自体が小さいため何でも大きく感じてしまうのだ。

何度か言葉を変えて質問し、ようやく彼女の腕に抱きかかえられるほどの大きさのクマだと分った。

そして「男の子」。一目で見て縫いぐるみの性別など分るはずもない。更に「目があどけない」という何とも判断しがたい手がかりではどうしようもない。

手がかりらしい手がかりと言えば彼女の家のそばで無くなった事と、首に巻かれた青いサテンのリボンだけ…

またぴすぴすと泣き出した少女とティファを「ファイナルヘヴン」に残し、2人は『ショーン』を探しに出かけた。

 

大方そこらへんの子供が持っていったのではないかと思い2人は近所の子供達に聞きこみをしたがそれらしい手がかりは得られなかった。

勘違いされてごみに捨てられた可能性も考え、周辺のごみ箱を見て回ったり集積をしていた掃除屋にも聞いたが、『ショーン』はどこにもなかった。

小一時間程探してクラウドとザックスは壊れた電灯下のベンチで溜め息をついた。

「直ぐ見つかると思ったんだけどな」

ザックスはタバコに火をつけながら呟いた。

「…手がかりも無いし、見当もまるでつかない…一体どこにあるんだろう?」

クラウドは考えを巡らせた。ザックスも考え込んだ。なくなった場所や少女の家も一応調べたが皆目見当がつかない。

「まー考えてても仕方ねーか。クラウド、二手に分かれてそこらへんもう一度見てみようぜ」

30分後の集合を約束して、2人は分かれた。

 

ザックスは狭い路地まで入りこんで調べていた。がらくたが積まれたところを引っ掻き回して調べたが特にそれらしいものも見当たらない。

「ねぇなあ… …ん?」

がらくたが積まれた側に何か茶色いものが埋まっている。

「もしかして」

ザックスはその物体を掘り出してみた。だがそれは紳士ものの靴だった。

「はぁ…期待させやがって…って…」

ザックスが何気なく壁際に目をやると縫いぐるみの耳らしきものがはみ出ている。

「お!これは期待してよさそうだな」

ザックスはそばに落ちていた木片を使って地面を掘った。

結構深いところに鍋の蓋や動物の骨、ボールと一緒に縫いぐるみが埋まっていた。

確かに茶色いクマ、サテンの青いリボンを首につけて、目があどけない感じに見えなくもない。

「クラウド!クラウド!あったぜー」

ザックスが縫いぐるみを持って立ち去ろうとした…次の瞬間。

彼は後ろから何者かに襲われた。

「うわっ!!?」

暴漢の正体は…野良犬。

折角埋めた宝物を持ち出されては大変と犬は容赦無く襲いかかってくる。

「わ!?い、痛ぇ!噛むな!怒るなって、おい!」

ザックスの声を聞きつけたクラウドが機転を利かせ、そばの肉屋のおかみに肉をもらって犬に投げた。

犬が肉に気を取られている間にザックスは転がるように路地から飛び出した。

ザックスの様子を見てクラウドは肩を竦めた。

「おまえ…本当に元ソルジャーかよ…」

 

汚れてしまった『ショーン』は、事情を聞いた肉屋のおかみがすっかり綺麗にしてくれた。

「ファイナルヘブン」で待っていた少女は大喜びし、仕事は一件落着となった。

代金は少女の笑顔。たったそれだけ。

 

午後の仕事のため3番街に向かいながらクラウドは呟いた。

「折角のオフが無くなっちゃったよ」

ザックスはそんなクラウドを見るとにっと笑った。

「まぁ、無償の仕事もたまには良いだろ?いい事したような気分になれるし」

「…まぁな」

クラウドも微笑した。

「さて、午後の仕事も頑張るか!」

 

END

 


何でも屋パラレル。ザックラにしようかと思ったけど普通に。
でもふだんザックラやってるから見る人によっちゃザックラに見えるかも(笑)
冒頭の「ファイナルヘヴン」の設定、自分的には「絶対これだ!」と思ってる。

最後の2人の気持ちと少女の気持ちが「なんだか嬉しい」なんですね。わかりにくいけど。

女の子には当初「マフェット」って名前がついてた。「マフェットお嬢ちゃん」のマフェット。

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