「痛い?」
「…べつに」
それでも消毒液の滲みた脱脂綿が傷口に触れるとぴくん、と手先がふれた。
ああ、このヒトだって人間なんだ、いたくないわけがない とトウコは心の中で思う。
でも ほんとに痛いのは傷口じゃなく 心
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仕事は暗殺。ギャングなのだから仕方がないけれど、でもなるべくなら仕事はない方がいい。
久々の仕事から帰ってきたプロシュートは、腕を怪我していた。
殺されるものに、「偉大なる死」を。その名のとおり、彼のスタンドは老いという偉大な死を対象に与える。
今回の仕事は、ある一家を全員消すこと。大勢に一気に手をかけるのにプロシュートの能力が向いていると判断され、彼が送り込まれた。
トウコは黙ってガーゼを当て包帯を巻いた。あまり器用でないトウコ、巻かないよりはましかもしれないがだいぶゆるく包帯は巻かれた。
怪我は大したことはなかったが、帰ってきたプロシュートの表情は浮かないものだった。口数も少ない。後味のあまりよくない仕事だったのだろう。
おそらく、子どもにも「偉大なる死」を――――……
暗殺を生業としているとはいえ、そのチームの誰もが快楽殺人者だとは限らない。いや、むしろ…
「…痛い?」
「…何度も言わせんな、別に平気だ」
テーブルに置かれたエスプレッソを取ると、包帯の隅がはらりと落ちる。
包帯の端を取り、巻きなおすプロシュート。
少し離れて腰掛け、その様子を見ていたトウコ。
「…あたし あんたがすきよ」
突然の言葉をはっ、と鼻で笑うと、プロシュートの口元がわずかに緩んだ。
「急に何を言い出すかと思えば」
トウコは恥ずかしそうにするでもなく微笑むでもなく、気だるそうな、いつもの人形のような表情(かお)のままだ。
エスプレッソを一口含むと、トウコを振り返る。光の指す部屋、白い壁、カバーのかかったソファ、その一瞬を横切る既視感、
あぁ、前にもこんなことが。
「あんたのスタンドは 辺り一面が若葉に溢れてても、触れたらそこだけ枯れていく 哀しいスタンドね」
「……」
「あんたの周りだけ死で包まれてるのは寂しいこと 心が痛い でしょ?」
「…別に 平気だ」
「…だから あたし あんたがすきよ」
あたしは もう痛いとか哀しいとか寂しいとか そんなの麻痺した。
けどあんたは、そういうのちゃんとわかるから わかってて強がるから だからすき。
スマートにキメているけど ホントは不器用でやさしい
「…そんなこと言っている暇があったら、カップを持ち上げるたびに解ける包帯をなんとかしてくれよ」
自分の喜怒哀楽だとか痛みだとか忘れているくせにどうしてやたら人のことには感づくんだろうな、
プロシュートの口元に寂しげな笑みが浮かぶ。
そして不器用に包帯を巻きなおすトウコをそっと抱きしめた。
暗殺者にだって大事な人はいる
06/01/26
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