同じチームのスタンド使い、トウコは不思議な女だった。
突き放すように、かわす様に逃げる時もあれば気まぐれに甘えてくる。
トウコの二面性はある種のスイッチのようで、それが入ると普段のトウコとは違った面が見え始める。
寡黙であまり気持ちを吐露したりしない彼女が急に自分の内面を出してきて…
その内に持っている気質ははどこか一歩引いた様な、どこか自分自身を自らこき下ろすようなところがあった。
それは他の女がやるように、自分を卑下して否定してくれるのを期待するようなものでなく、本当に自分を傷つけるように、蔑むように。
「あたしはいないほうがいい人間なんだよ」
そんな風にさらりと言い、目を細めて静かに笑っている、そんな女。霧や空気のように掴めない。
つかず離れずの関係のトウコに、近頃はどちらかと言えばプロシュートの方がのめりこんでいるようで。
恋人として申し分のないスマートなプロシュートと、どこかミステリアスでちぐはぐな、トウコと。
その日も、トウコの気まぐれでスイッチは切り替わった。
「ねぇ、プロシュート」
プロシュートの部屋のソファで、急ぎのデスクワークを片付ける、と仕事のパソコンを広げるプロシュートの横で
肩に凭れて目を閉じていたトウコがふと顔を上げた。
「あたしたちやっぱりだめよ」
「何がだ」
プロシュートはキーボードを叩く手を止めると傍らのトウコの頬にそっと触れる。
けれどそれにも眉ひとつ動かさない、そんな禁欲的というか、情を内に秘めた人形のようなところもプロシュートは気に入っている。
「あたしにあんたはやっぱりもったいないわ」
「そんなことないさ」
深みを増した藍色の瞳が虚ろにプロシュートを映している。
沈黙に、微かなジャズピアノの音がコンポから流れてくる。
「でも、」
「言うな」
プロシュートはまだ何か言いかけたトウコの唇を噛み付くように強引に塞いだ。
舌を絡め取ると吐息が漏れる。トウコが苦しそうに眉を寄せる。
唇を離すと名残惜しそうに細い銀の糸が引いた。
生理的な涙の滲んだトウコの瞳が開こうとしたその力の抜けた瞬間を狙ってプロシュートはトウコをソファに押し倒した。
「プロシュート、あたし、」
また開きかけた唇を塞ぐ、言葉を許さないように。
形のよい唇を舐め上げ、それから首下に啄ばむようなキスを落とし――――
何度もそんな事を繰り返しているうちに、トウコの白い腕はプロシュートの背に回されて。
プロシュートはトウコの頭を掻き抱いた。
細い喘ぎ、絡む熱――――…
トウコは抵抗しない、口でああは言っていてもやはりこの男を確かに愛しているから、
確かに愛している男だからこそ素直でない言葉が出てきてしまう事もプロシュートはわかっている。
彼女のスイッチを操れるのはプロシュートだけ。
また熱の冷め切らないけだるい身体を起こし、はだけたシャツの胸元を押さえながらトウコはふうっと息をついた。
「やっぱりあたしだめだわ」
プロシュートは緩めたネクタイを解きながらトウコに目をやった。
トウコは続ける、先ほどの2人の間に流れていた張り詰めたような空気とは違う。
「こんな風にしていたらあたし、あんたから離れられなくなるわ。いつもあんたの事ばっかり考えるようになって、それで」
そしてプロシュートの肩にことり、と頭を乗せる。
「いつかあんたのことしか考えられなくなるんだわ」
「それは結構」
プロシュートは優雅に笑うとそっとトウコの髪を撫でた。柔らかいセピアの髪は指先からさらりと零れ落ちる。
「俺だってお前の事しか考えられない」
トウコは顔を伏せたまま目を閉じた。
「やっぱりあたしにはあんたはもったいないわ」
繰り返されたその一言は先ほどとは違うふわりとした温かみを持って。
プロシュートは壊れやすいものを包み込むようにそっとトウコを抱き寄せた。
大人な雰囲気にしたかったけど軽く玉砕。
プロシュートが本気になるならこんな人がいいな、みたいな。
04/11/06
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