ひらひらの赤い花びら
010:Petals on the road
燃え上がる建物、人々の怒号。
スラム2番街、テロリストのアジト。
兵士や医師があわただしく駆け回る。
「こんな任務でわざわざ『彼』を使うことはないわ」
短刀をぶら下げ、少し離れたところから喧騒を冷めた目で見ていた銀髪の女はぼそりとつぶやいた。
蒼と橙のオッドアイに映るのは、いまだ燃えさかる紅蓮の炎。
髭を蓄えた、茶髪の屈強な司令官がその言葉を制す。
「口を慎め、立派な作戦批判だ。『彼』を使うのは神羅の力の誇示だ。他に刃向かうものへの『見せしめ』なんだ」
「わかってるわ、ジャン。言ってみただけ」
気まぐれにつぶやいて火に歩み寄る銀髪の娘を、ジャンと呼ばれた男は仲間を見る目と言うよりもわが娘を見るような目で見守った。
炎が放つ熱波の中。足音も立てずに熱源に歩み寄る。
石畳に散る花びらのように見えるのは血痕。見やるとそこには女の屍体。
「あぁよかった、あなた」
口角をつりあげると銀髪の女性、ハルは屍に語りかけるようにつぶやいた。
「『彼』に殺されたんじゃないのね、もしそうだったら今頃屠殺された羊みたいにぐしゃぐしゃだわ」
ふいにつうと涙が零れ落ちる。透明な雫は血痕の上にぽたりと落ちて紅く溶けた。
「ごめんね…」
同じ人間なのに、どうして争うのだろう。この腐ったピザは、魔晄の都市は、人を人でなくしてしまうらしい。
「せめて苦しまずに…」
女の屍の顔は穏やかだった。鮮やかな血痕が花びらに見えるほどに。花の中で眠っているかのように…
夜、『彼』の部屋を訪れると卓上のガラスの器に紅い花。食むと血のように苦い味。
ちぎって散らせば、紅蓮の炎の中で見たように、鮮やかな血の色…
「ねぇ、セフィロス」
彼女に背を向けてデスクワークを片付けていたセフィロスはふと背を振り返る。
「もう逃げたいって言ったら、怒る?」
あんなことが起きる度、胸が静かに軋む、そのうちそれもなくなり…そうしたら自分はどうなってしまうだろう、その前に。
ふ、とセフィロスが目をそむけた。
「…うそよ」
ハルは背を向けて書類に目を落とすセフィロスの背からそっと腕を回した。
流れるような銀の長髪に顔を埋めてそっと呟く。
「あなた一人の手を汚させることなんてしない」
世の中を綺麗にするために、手を汚し返り血を浴び続ける可哀想な神羅の偶像。
地獄に落ちる時は私もともに。
じぶんもつらい でも だいすきな人がつらいのはもっとつらい
06/05/03
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