「ねえ、あたしってあんたにとって何なの?」
「さぁ…なんだろな、と」
Swallow tail-Butterfly
ぱん、と乾いた音がした。雑踏の中でもはっきりと。
刹那、左頬が火照るように熱くなった。じわっとした痛みが広がる。
女は絞り出すように恨み言を並べ立てるがが、他に無関心なこの街の住人、たかだか痴話喧嘩程度に目を止めやしない。
いつもそうやって冷たいだの、心がないだの、もうあなたには会わないだの、顔も見たくないだのと。
一通り言い終わると気が済んだのか、そのうちに女は涙を零して去った。
「こっちだってお前みたいな女、もうまっぴらごめんだぞ、と」
後から言うと負け犬の遠吠えみたいだが本当のことだ。
ひと時の夢を見られただろ?オレにそれ以上のことを期待するなよ、と。
自分を可哀想だと思ってんのか?思いたければ思えばいい。
尻尾を振ってついてくるだけのオンナなんて退屈だったらありゃしない。
その上オレを独占して縛ろうだなんて思い上がりも甚だしい。
オレはお前のモノじゃないんだぞ、と。
あぁ、ばかばかしい。猫の皮かぶったメスが。
興ざめしてポケットからしけた煙草を取り出して火をつける。
煙の上る先には一羽の蝶。透けるような白い羽、扇情的に舞う姿。
ふ、と その銀色にも見える薄い羽、誰かの髪色を思い起こさせる。
ネオンのけばけばしい色を淡く映し出して、その中でレノの目を惹いたのは、夕焼色と蒼を重ねた瞬間。
冷たい硝子玉みたいな瞳が頭の中を掠める。
ああ、オレの欲しいのは蝶だ。
いくら追っても逃げる、力尽くなんかでは到底手に入らない、しなやかに優雅に舞う。
気まぐれに肩にとまってはまたひらりと舞い上がり―――
「案外オレも一途だぞ、と」
簡単に手に入るものは面白くもなんともない。
めんどくさいことは嫌いだけど、こと恋愛に関してはアレコレ手を尽くして追いかけて手に入れるモンの方が面白いに決まってるぞ、と。
ひらひらと舞う蝶を見上げ、レノはまた、紫煙を吐き出した。
レノハルもえ
05/08/13
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