012;A Guardrail

ミッドガルのハイウェイを一台の車が滑るように走っていく。

その車を運転しているハルはふと外を見やった。

夜の風景が外に広がる。空中に浮かぶこの都市の灯りが様々な色に輝いている。

プレートの下のスラムにもきっと同じように、人の数だけ灯りがともっているのだろう。

煙草を銜え、火をつける。

「あ、禁煙…してたんだっけ…まあ、今日の一本くらいはいいか」

ひとりごちて窓を細く開けた。細い煙が窓から流れていく。

あの日以来、どうもぼうっとする事が多くなってしまった。

「事故でも起こしたら大変よね」

けれど事故を起こして死ぬとしても、その事に対する恐怖心は不思議な事になかった。

 

ガードレールが長く続き、一定の間隔で街灯が立っている。単調な空間をただ車を滑らせる。

このままの速さでガードレールを突き破って飛びだしたらどんなことになるだろう?

きっと車はぐしゃぐしゃに潰れて自分はあっけなく死ぬ。

けれど同時にその空中に車ごとふわりと浮く感覚を想像してちょっぴり愉快になった。

その一瞬の快楽を試してみようか?そんな気さえ起こってくる。

次の瞬間、くっと自嘲的な笑みを零して我に返る。

あの日から、自暴自棄と言うか死ぬ事に対して無頓着になった。

現役ソルジャーだった頃、死ぬ事も傷つく事も怖くなかったがそれでも帰るべきところがある、会いたい人がいる、という一心で闘い生き残ってきた。

けれどもう…帰るべきところも会いたい人も居ない。

彼女はぎゅっと銜えた煙草を噛んだ。

「…逃げるのは嫌いだ。けど…」

ハルはひとりごちた。

逃げるのは嫌いだ。どんな事だって受け止めなければいけない。逃げていたって何の解決にはならない、そう思うから。

けれど彼が『消えた』ことは未だに…そしてまだしばらく認められそうにない。

逃げているのは判っているけれど、受け入れるようになるまでは…しばらく、彼がそのうち帰ってくる事を夢見ても良いだろうか?

「…あの感覚を試すのはいつだって出来るよな」

死に急ぐ事はない。その気になればいつだって、ガードレールを突き破って飛び出せる。

「また命拾いした」

彼女はまだ長い煙草を灰皿に押し付けると、ギアを入れた。

 

加速した車のテールランプが、遠い闇に消えていった。

 

 


03/11/11

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