窓からミッドガルの夜景が見える。街の至る所に飾り付けられたイルミネーションの光が積もった雪に反射してきらきらと輝いている。

ハルは最終電車の窓からその光景をぼんやりと眺めていた。電車は滑るように走り規則正しく揺れ、進んでいく。

乗っている人もまばらで、彼女のいる車両には他にカップルが1組とサラリーマン風の男性、それに飲んだくれた酔っ払いがいて、酔っ払いは座席に横になって眠っていた。

ハルは被っていたキャメルのキャスケットを心もち持ち上げ、窓の外の光を物憂げに見つめた。キャスケットの端から銀の髪が零れる。

街の光は眩しいほどで、思わず左右色の違う瞳を細める。

共に過ごす恋人のいない降誕祭がどれだけ寂しいものか。

その恋人との間にもう愛が無くて、そのために共に過ごさないでいるというのならこんなにも切ない気持ちにはならない。

だけど彼らの間には確かに愛があったのに…彼女の恋人のレイは任務中に事故で行方不明―――未だに発見されていなかった。

遺体も発見されずに会社に死亡報告を出されても全く納得がいかない。

まだ好きなのにその人と過ごす事が叶わない。それが苦しくて、何かを振り払うようにハルは降誕祭に仕事を詰めた。

世界一の大企業神羅カンパニー、降誕祭といえど仕事は手に余るほどあった。

休暇を取って一人で物思いにふけるよりも、何かをしている時ならばその切ない感情を忘れられると、彼女は仕事の予定を詰め必死でこなした。

けれどやはりそれは一時の感情が無理やり切なさを押し隠しているに過ぎず、こうして独りになると忘れようとしても忘れられず心の奥から侵食されて。

 

 

 

ふと鳴る携帯電話。慌てて出たために誰の番号かも確認せずに出てしまった。

「もしもし、俺」

懐かしい声。聞き間違いかと思って一旦電話を耳から離し番号を確認する。

ひとつひとつナンバーを反芻するたび息が詰まる。鼓動が早くなる。かかってくるはずない。だってこの番号は…

「あなた、誰なの?」

動揺のためであろうが、随分とつっけんどんな言い方をしてしまった。

間違い電話ならば相手に失礼だったとハルは内心舌打ちした。

けれど相手は尚もありえないはずの言葉を口にする。

「誰って…ひどいな、俺だよ。レイ。レイ・ド・ラザフォード」

「嘘…嘘!いたずらはやめて!!」

半ば泣きそうな声で否定する。まるで自分に言い聞かせるように。

「嘘じゃないって、今日はどうしたんだ、ハル?仕事、忙しすぎるんじゃないか?大丈夫か?」

自分を気遣ってくれる声は間違いなく彼の優しいもので。

真実か幻想か、ただ頭が混乱して…何も判らなくなって。それでも彼の声が耳に響いてくる。嫌でも鼓膜を震わせる。

「ああ、そうだ、今最終電車に乗ってるんだろ…俺、駅の側の広場の…今そう、ツリーの下にいるんだ。あのきらきら光って綺麗なの。

もうじき窓から見えるだろ、手を振るから…」

顔を上げて窓の外を見る。あのいつもの、優しい笑顔で手を振るレイの姿があった。

長身で締まった筋肉、アッシュグレイの髪に、吸い込まれそうな魔晄の蒼の瞳…

嬉しさか、切なさか、それとも別な感情か…涙が頬を伝った。

 

 

頬の涙を拭ってふと目覚めた。

電車は変わらず規則正しい音を立てて走っている。

駅もまだ遠い。幻影か、幻想か、或いは夢か…光に目が眩んだのかもしれない。

ありもしない幻影(もの)を見るなんて。

ハルは溜息をつくとキャメルのキャスケットを目深に被りなおした。

電車の音に混ざって街から聞こえる陽気な音楽が楽しくて少し切ない。雪の聖夜は静かに更けていった。

 

I wish you a merry christmas…

 


03/12/24

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