「私についてくるのは影だけか」

ヴィンセントは自嘲気味にくっと笑った。

 

時が流れても老いる事のないこの身体。

中に巣食う、自分ですら制御できない獰猛な野獣。

全てはあの男がもたらしたもの…

このまま永劫の時を生きるのだろうか?

私にはもう生きている意味も感じない。生きる気力も湧いてこない。

世を儚んで首でも括ればいいものを、そうする勇気も湧かなかった。

今一瞬でも長く生きたいと思う人々に、自分の命を分け与えてしまいたい。

そう出来たなら、自分が時をただ無駄に生きるよりもどんなに有意義だろうか。

死んでしまう勇気がないのなら、とヴィンセントはひとつ、棺を用意した。

あの日、この忌まわしい自分が新しく生まれた場所へとそれを据える。

 

ここで眠り続けている限り自分は死んだも同然になれるかもしれない。

 

昏(くら)い祈りを込めて。

永劫の時を、懐かしかった頃の夢を見て、せめて夢の中でだけは現実を忘れて幸せに生きていたい。

 

「私はやはり卑怯な男だ、ルクレツィア」

そう呟くとヴィンセントは棺の蓋を閉めた。

 

彼の心だけでなく肉体も深淵に包まれた。

再び棺の蓋が開く、その日まで…

 


ヴィンセントはあんな事態になった時に何を思っていたんだろうと思う。

05/01/30

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