1人の男が死んだのさ  とってもだらしがない男

お墓に入れようとしても どこにも指が見つからない

頭はごろりとベッドの下に 手足はバラバラ部屋中に

散らかしっぱなし出しっぱなし

 

 

 

 

 

古びたコンクリートの床。窓もなく、錆び付いた換気扇が軋んだ音を立てて回る。

黴臭い匂いが漂い、壁を伝うパイプのひびから茶色い水が零れ落ちる。

コツ、コツ、とその中で歩みを進める。

これ以上進んではいけない、何も見てはいけない。

頭の中で警鐘が鳴り響く。

それでも歩みを止める事は出来ない。

半歩前を進む看守の背はどこか無機的だった。

これから彼らが出くわすものが何であるかを知っているはずなのに。

 

「ここだ。よく見ておくんだな、エリートの卵」

 

3rdに昇格したばかりのソルジャーに課せられたこと。

それは、この薄汚い建物の中を単に回ることではない。

『知る』事。

 

看守はじゃらっと音を立てて鍵の束からひとつの鍵を取り出した。

手渡されるままに、ザックスは鍵を受け取り、少し歪んだ鍵穴に差し込む。

がちゃがちゃと左右に揺らしてようやく錠のあいた音がする。

ドアノブに手をかける。僅かに空いた隙間から有機の腐敗する匂いに、鉄の匂いが混ざる。

ザックスは一瞬ためらったが、ドアを開けた。

眼前に赤黒い色が広がる。

 

怖い。

 

怖い。

 

見てはいけないものだ、見たくない。

 

それでも目を離さずにはいられない。

 

 

 

逃げ出したソルジャーの末路。

脱走兵は後を絶たなかった。一般の兵士ならば逃げ出せばそれでおしまい。

けれどソルジャーともなればそうは行かなかった。

 

 

「うぇ…」

思わず喉元に酸っぱいものがこみ上げる。

赤黒い血溜まり、肉塊としか言いようのないモノ。

ぐちゃぐちゃになったナニカが散らばる。

もとは、あれが自分と同じヒトだったのか?

 

 

逃げ出したソルジャー。

野放しにするには多くを知りすぎている。

待っているのは当然のように、死。

それもただの死ではなく。

常人を越えた肉体を持つソルジャー。

少しの事では、その身体は死なせてはもらえない。

 

この惨劇の部屋がそれを物語る。

『これは、見せしめなんだ。俺達を縛る、見えない戒めなんだ』

 

 

 

 

 

ごっ。

あの時と同じように黴臭い、屋敷の地下に鈍い音が響いた。

スローモーションのように、白衣の男はザックスの目の前に倒れた。

最後に戦ったのは5年前―――久しぶりの、この感覚に拳が痺れる。

ザックスはふうっと息を吐き、緊張を緩めた。

男が倒れると同時に積み上げられた研究資料がばさばさと埃を舞い上げながら崩れた。

視界の端で、リアクターに閉じ込められたクラウドが力なく浮き沈みしている。

そのリアクターに手をかけようとすると、足元に生暖かい感覚が広がった。

 

ぴちゃり。

 

その色はいつかの惨劇の部屋を思い起こさせた。

赤黒い血溜まり。

刻み付けられた恐怖が一瞬のうちにフラッシュバックする。

 

これからしようとしていることは間違いなく叛逆。

もしヘタを打てばあの時の「ソルジャーだったモノ」と同様、いやその二の舞は否めない。

 

 

「けど、後には引けねぇ」

ザックスはひとりごちるとバスターソードを握り締めた。

 


さりげなくダーク。残酷描写って書く時やっぱり気が引ける。
タイトルはラテン語。意味は「貴方は私であった。私はいずれ貴方になるだろう」だと思う。

04/08/04

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