『すっごく美味いんだよ。大好きなんだ』
Icecream Extreme!
立ち寄った町の店先の、ケースに並んだ氷菓がふと目に付く。
ふわふわとしたパステルカラーのそれは、どこかで見覚えがあった。
「そうか、前…」
肩までかかる黒髪を束ねた長髪の青年はその店の前に立ち止まり、ガラスのウインドウをぼんやりと眺めた。
夕暮れ時の斜陽が、背の高く細い彼の影をいっそう細く長く際立たせる。
端整な顔が磨き上げられたガラスに映った。彼は何かを思い出すように緋色の瞳を細めた。
「ねぇねぇ、これ、見てよ〜」
白く輝く太陽が照りつくコスタデルソルの、小さな家で休息を取っていた時の事。
テラスで涼んでいたヴィンセントとティファとナナキに、小さなチラシを持ったユフィが寄ってきた。
「じゃん★」
テラスの上の小さな白いテーブルにぱっとその鮮やかなチラシを置くとユフィは椅子に腰掛けた。
「なあに、これ?」
ティファがチラシを覗き込むとユフィは口を開いた。
「ティファ、知らない?ゴールドソーサーに本店があるアイスのお店なんだけどさ、最近あっちこっちに店出してんの。
その店のメニューのパンフレット」
テーブルの下でへばっていたナナキもいつのまにかチラシを見ていた。
つられるようにヴィンセントもチラシに目をやる。
ごちゃごちゃしたそのチラシにはパステルカラーのアイスクリームの写真がいくつも並んでいた。
「美味しそう」
ティファの呟きを聞きつけて、ユフィが身を乗り出す。
「でしょ、でしょ?あたしのオススメはこれと、これとね〜…」
ユフィはかわるがわるクリーム色やチョコレート色のアイスクリームを指差す。
「これ!」
最後に指差したのは白に浅緑のアイスクリームだった。色の濃い赤や緑のチョコレートがちりばめられていて目を引く。
「可愛いアイスクリームね」
ティファが微笑むとユフィは白い歯を見せてにっと笑った。
「えへへっ、これね、すッごく美味いんだよ。大好きなんだ。みんなにも食べさせてあげたい」
その彼女の笑顔がとても印象的だったから、さして興味のない氷菓の話題でも彼が記憶していたのかもしれない。
その時は確か、彼女とティファが買いに行くと店は閉まっていて、ユフィがしきりに残念がっていた。
ヴィンセントはそっとガラスのドアを手で押した。
ドアの右上に付けられた鈴が涼しい音を立てた。
「いらっしゃいませ〜」
茶髪をおだんごにした女性店員がにっこりと笑って迎える。
ヴィンセントはガラスケースに並んだ氷菓に目を落とした。
彼女が大好きだと言っていた白と浅緑のアイスクリームに一番に目がいく。
「これを」
「はいっ、かしこまりましたぁ」
女性店員は話し方ののんびりした口調とは裏腹にてきぱきとアイスクリームを尖ったワッフルコーンに盛り付けていく。
「おまたせしましたぁ」
店員から渡されるとひいやりとした冷気が伝わってきた。
そのまま店を出てそっとアイスクリームに唇をつける。
ほんの少し齧ると、ふわっと甘い香りが口に広がり、中に混ぜ込められたキャンディがぱちぱちとはじけた。
なるほど色も味も彼女のイメージそのものだと、ヴィンセントは口元を僅かにゆがめ、ほほえんだ。
彼女の好きなものをひとつ知ったと思うと、どこか嬉しくなった。
いずれ、彼女と一緒に食べようと考えながらヴィンセントは歩き出した。
レンガ造りの道に細く黒い影が伸びていった。
久々微ヴィンユフィ。ヴィンにアイス似合わない…好きな人の好きなものをわかるとちょっと嬉しくなる気持ちを表現したくて。
04/07/11
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