その日、ユフィはウータイの自分の家からぼんやりと景色を眺めていた。

朱色の五重塔、流れる川、ダチャオ像…和装ではしゃぐ子ども達。

唯一つ前と違う事は…空から不吉な色で大地を照らす、あの忌まわしい隕石が消えた事。

隕石は大地を抉り取り星に大きな傷跡を残したものの、ライフストリームとホーリーの…人の祈りの力には勝てず、消滅した。

戦いが終わって、それぞれみんな戻るべきところに戻っていった。

シドはロケット村で待つシエラの元へ、バレットはマリンとコレルへ、ナナキはコスモキャニオンへ、ケットシーは再びゴールドソーサーへ、

そしてもう戻るところのないクラウドとティファは…2人で旅をしていると聞いた。

もう随分経ったからもしかしたら今頃どこかに家でも持って落ち着いているのかもしれない。

「ま、どーせあの2人の事だからぜんっぜん進展ないんだろうけどね〜」

ユフィはくくっと笑った。そしてふとさびしくなる。

ユフィの、今差し当たり気になる人と言えば…

「あいつ、どーしてんのかなぁ」

ユフィの脳裏を赤マントの男がふと掠める。

彼にはもう帰るべきところはなかったはずだ。仲間の中で今どこでどうしているのかが唯一わからない。

 

…会いたい。

 

会いたいと思ってももはやどうにもなる事ではなかった。どこにいるのか、何をしているのか…

全くわからない状態では連絡の取りようもない。生きているのかどうかすら不明だった。

「こんなのってないよなあ…」

ユフィはぐしっと鼻を鳴らす。滲みかけた涙は頬を伝う前に指でそっと拭った。

どーせ今も棺桶の中でぐーすか寝てるんだろう。そうでも思わなきゃこの切なさはやりきれない。

「…にしてもっ」

ユフィは暗くなった気持ちを吹き飛ばすためにわざと大きな声で独り言を呟いた。

「なーんでこのユフィちゃんの誕生日に誰も訪ねてこないのさっ!ティファも、クラウドもっ!」

もうじき郵便が届く時間だ。そうしたら何かしら手紙など届いているかもしれない。

…そう、ヴィンセントからも…来ているという一抹の期待を胸に抱いて、ユフィは待った。

タイミングよく飛脚が現れ、いくつもの包みや封筒がどさどさと景気よく床に置かれた。

ユフィはすぐにその山の前に座り込むと包みを開け始めた。

最初の包みはティファとクラウドからだ。

「『もうだんだんウータイも寒くなるでしょう。風邪を引かないでね』だって!やっさしいなぁティファは〜!」

カードに書かれたメッセージと共に薄ピンクのマフラーと数枚の便箋が同封されていた。

中には彼女やクラウドの近況や、今度皆と会いたいとの旨が綴られていた。

「ふ〜ん、今はミッドガルにいるんだ」

クラウドとやリーブと共に、そこで暮らす人々の援助や手伝いをしているとのことだった。

ミッドガルの子ども達に囲まれて笑顔のティファとクラウドの写真を見てユフィは苦笑した。

「まったく、コレ家族にしか見えないよね〜!」

いいかげんお互いの気持ちに気づけばいいのに、とユフィは思った。

次の封筒はところどころ炭で汚れていた。バレットからだ。

バレットは今、魔晄エネルギーに代わるエネルギーが開発されるまでの間、石炭を活用すべくコレルでもう一度炭鉱夫をやっているとのことだった。

マリンとバレットの写真と共にマリンの手書きのカードも添えられていた。

「マリン、なんか大人びた感じだなぁ」

アタシも追い越されないようにしないと、と呟きながらユフィは父子の手紙を封筒に戻した。

ナナキからの手紙にはマテリアが同封されていた。

「『ヒュージマテリアからマテリアが取れたからユフィに送るよ。誕生日おめでとう』かぁ。

今はもうマテリアの力なんかいらない世の中になっちゃったけど、ま、ありがたくいただいときますか♪」

ケットシーからの手紙には可愛いデブモーグリの便箋に不釣合いに几帳面な文字が並ぶ。

『ユフィはん、元気してまっか〜?たまにはボクのとこにも遊びに来てや。占い、おまけしまっせ!』

便箋はゴールドソーサーのものだったが消印はミッドガルだった。おそらくケットシーの本体であるリーブが書いたのであろう。

「堅物そうな字だけど中身がケットシーなんなら、結構気が合うかもな。会ってみたいなあ」

あのシドさえも手紙をよこした。シドらしい勢いのある…もとい豪快なでかい字が便箋に所狭しと書き並べてある。

「『よう、17の誕生日、少しは女らしくなったか?オレ様の船に乗りたくなったらいつでも言え!全速力で飛んでってやる』か。な〜んか、いかにもあのおっさんらしいよ」

包みの中にはシエラが作ったと言う、ビーズのブレスレットと手乗りのウサギの縫いぐるみが入っていて、ユフィはその精巧さに舌を巻いた。

包みの中に丁寧にブレスレットと縫いぐるみを戻して、ユフィははたと気がついた。

「これで…手紙はおしまい…」

ヴィンセントからの手紙はやっぱりなかった。ふっと寂しくなる。

「…仕方ない、か…」

今日は父のゴドーやチェホフら五強聖が凝りに凝った夕餉でユフィの誕生日を祝うといっていた。

反抗期ゆえか、長い事父や五強聖には反発していて、食事どころか会話もろくにした事がなかった。

良い機会だ、誕生日をきっかけにゆっくり話してみるのも良いだろう。

祝ってくれる家族がいるのだから、寂しくなんかない…

ユフィはそう自分に言い聞かせた。

ふとユフィは窓の外に目をやった。

晩秋のウータイの木の葉は紅や黄色に染まり、その美しい紅葉(こうよう)を見ようと大勢の観光客が訪れていた。

その人ごみの中に―――――その人を見つけたのは本当に偶然だった。

「!!」

ユフィは考えるよりも先に飛び出していた。

 

「どいて!」

「うわ!?」

背後に聞こえる観光客の文句も聞こえないように、ユフィは疾風(はやて)の如く駆け出していた。

長い黒髪に、ひょろりとした長身。

機械仕掛けの義手を左手につけ、黒い服を纏い。

紅いマントこそ身につけてないものの腰に銃のホルスターを下げ、頭には赤いバンダナを巻いている。

「待って!」

間違いない…間違いない!!

あれは、あの人は…!

 

「ヴィンセント!」

叫ぶと同時にユフィはその人物に抱きついていた。

細い体躯は突然の衝撃に軽くよろめいたが、かろうじて彼女を受け止める。

「ユフィ…久しぶりだな」

しがみついたまま離れない少女の髪をヴィンセントはくしゃっと撫でた。

ユフィは顔を上げた。

「どうしてこんなところにいるんだよ?」

その問いにヴィンセントはふっと微笑んだ。

「今日は…誕生日だったな」

その一言でユフィの目から涙が溢れ出す。

ユフィは再びヴィンセントの胸に顔を埋め声を絞り出した。

「嬉しい…嬉しい…っ…!」

ヴィンセントは困ったような、けれど優しい笑顔を浮かべてそっとユフィを抱き寄せた。

2人の頭上から紅い紅葉(もみじ)が降るように舞って――――…

 

祝ってくれる家族と、便りをくれる仲間と、大好きな人がいて…今日は、最高の誕生日。

 


HAPPYBIRTHDAY、YUFFIE!

03/11/20

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