今回の遠征はザックスにとってはソルジャー2NDに昇格してから初めてになるウータイ遠征だった。

日の傾きかけた頃宿営地を歩いていると、怒鳴り声が聞こえてきた。

「この泥棒猫!」

「痛いな!離せよ!!」

威勢のいい甲高い声が怒声に応じる。

ザックスが声のしたテントを覗いてみると、兵士が2人と女の子が1人。

女の子は7、8歳くらいだろうか?襟首を掴まれてもなお暴れている。

「おい、どうした?」

兵士はザックスの声に振りかえり、敬礼をした。

「はっ、ソルジャー・ザックス!この娘がテントに忍び込み、マテリアを盗み出そうとしたのです」

「武器も持っていました」

兵士の差し出した武器を見るとそれはウータイ地方に伝わる特殊武器、手裏剣のようだった。

しかし金属で出来てはいるが、刃も弱く実戦には到底通用しないような玩具の手裏剣。

「ウータイの子供のようです」

「どうしましょう?」

ザックスは考えた。スパイなら即始末だがまだ7、8歳の子供…生かして帰しても問題はないだろう。

しかし無条件釈放は軍紀違反。一応子供とはいえ敵・ウータイの者だからだ。

「とりあえず俺が預かる」

ザックスはそう兵士に命じ、少女の手を引くと自分のテントに連れて戻った。

 

「ここでしばらく暇つぶしてろよ」

ザックスは木箱に腰掛けると煙草に火をつけた。幸い同じテントの連中はどこかへ出払っていた。

少女は上目遣いでザックスを見た。

「アタシをどうする気だよ…」

ザックスはふぅっと紫煙を吐き出すと少女を見た。

「心配すんな。日が暮れたら目立たないように帰してやるから。俺はザックス。お前、名前は?」

「ユ、ユフィだ」

「ユフィ、か…何しに来た?ここは子供が遊びにくる所じゃない。運が悪かったらお前今頃殺されてたぞ」

ユフィはその言葉を聞くときっとザックスを睨みつけた。

「お前達こそ、何しに来ているんだよ!!」

「質問してんのはこっちだ」

ザックスはわざと冷たく返した。多少は脅かしておかないとまた乗り込んできたりするかもしれない。

「ぅ…」

ユフィはザックスの魔晄の瞳<め>を見ると一瞬たじろいだがやがて呟くように答えた。

「…マテリアが、必要だったんだよ…」

「マテリア?」

ザックスは訊ねかえした。ユフィは唇を噛んだまま、俯く。

「…っ、このままじゃウータイは負けちゃう… 強い強いマテリアがあればもしかしたら勝てるかもって…」

「どのみち無理だ」

ザックスはぎょっとして声の主の方を振り返った。

振り返った先にはセフィロスが何時の間にかテントの入り口に立っていた。

ザックスは「見つかった」とばかりにばつの悪そうな顔をした。

「…ザックス。お前の隠し子か?それとも、遂に童女趣味になったか」

銀髪の英雄がザックスの緊張感とは裏腹にくだらない事を呟く。

「莫迦言うな!」

「冗談だ。お前の女好きは神羅でも有名だからな」

セフィロスはそこまでいうとちらりとユフィの方を見た。

氷のような瞳に見つめられてユフィはぞくっとした悪寒を感じた。

「この娘はどうする気だ?」

セフィロスに問われてザックスはわざと軽い調子で言う。

「…逃がす。別にイイだろ?」

セフィロスは木箱に腰掛けたザックスを見下ろすようにして言った。

「明らかにこの娘はウータイの…敵の者だ。軍紀は知ってるな?」

「わかってるよ。でもまだガキじゃねーか」

ザックスは煙を吐きながらセフィロスを見上げる。

「確かに子供だ。しかし陣地に乗り込んできた。武器も所持していた。立派なスパイだ」

「うるっさいな、この触覚男!」

甲高い声が男二人の話を遮った。

「!?」

ザックスは、いやセフィロスさえも目を丸くしてユフィの方を見た。

「ここはアタシ達の土地なんだ!それを…お前達が勝手に入ってきて、戦いをしかけて、たくさん人を殺して、好き勝手やって!!

アタシのおふくろも、生まれたばっかの赤ちゃんも、みんなみんな巻き込まれて死んじゃったんだぞっ!!

今すぐ…今すぐウータイから出てけっ!!!」

ユフィはそう叫ぶと大口を開けて泣き喚いた。

セフィロスはやれやれ、と言った風にため息をついた。

「ザックス。その娘を逃がしてやれ」

「おいおい、どういう風の吹き回しだよ?」

問うザックスにセフィロスはくるりと背を向け立ち去りぎわに言った。

「…うるさくてかなわん」

 

「こっから真っ直ぐ行けばウータイだぜ」

あの後、べそをかくユフィをどうにか目立たぬよう連れ出して、成るべく安全な海岸をたどってウータイまでの道を歩いた。

帰る途中やっとのことで泣き止んだユフィだったが石のように押し黙り一言も口を利かなかった。

ザックスも無言のまま彼女の半歩前を歩いた。

ウータイの町が見えるところでザックスは立ち止まった。

これ以上はソルジャーの制服を纏う自分が立ち入るわけに行かない。

「じゃ、気をつけて行けよ。じゃあな」

そう言って踵を返すザックスをユフィが呼び止めた。

「待てよ!」

「あ?」

「何で逃がしてくれたんだ?あの触角も、ザックスも」

ザックスはそれを聞くとユフィの頭にぽんと手を置いた。

「ガキにはわかんねーよ」

「な、何だとお!!」

ザックスはぷりぷり怒るユフィにひらひらと手を振った。

「じゃあ、元気でな。ユフィ」

「…うるっさーい!!神羅のくせに!そう思うんならさっさと出てけタコ!!」

ユフィはいーっと舌を出すと町の明かりに向かって一目散に駆けていった。

ザックスはその後姿を見送ると、星空を見上げた。

「セフィロスのヤツだって、最初から逃がすつもりだったんだろーよ」

彼が冷たい事を言ったのはユフィを2度と宿営地に近づけない為の彼なりの思いやりだったのだろう。

 

『お前達が勝手に入ってきて、戦いをしかけて、たくさん人を殺して、好き勝手やって!!

みんなみんな巻き込まれて死んじゃったんだぞっ!!

今すぐ…今すぐウータイから出てけっ!!!』

 

ザックスの脳裏にユフィの言葉がふっと思い出された。

ザックスは急に虚しい気持ちに襲われた。

忘れるようにかぶりを振るとザックスは呟いた。

「さーて、帰って寝っか…」

静寂の砂浜を、ザックスはもと来た方向へ歩いて行った。


開設当初からある作品。

01/09/14|04/07/29加筆

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