全てが終わったら。

 

ずっと2人で…

 

エッグとの死闘に終止符を打ち、一行は報告を待つテルムのヴァンアーブルの元へ向かうために船に揺られていた。

皆寝静まり、船内では波の音しか聞こえなくなった頃にプルミエールは船室を抜け出し、一人甲板に立っていた。

波は穏やか。風が潮の匂いを含んで時折プルミエールの緋の髪を揺らした。

空には満月が浮かび、月明かりがプルミエールの姿を柔らかく照らす。

深く藍色に広がる海を見つめ、プルミエールは家を出てから今までの事を静かに思い出していた。

 

あの時は先のことなど考えていなかった。

ただ逃げ出したかった、自身を縛るもの…家、血、絆、そんなものから。

常に沈着冷静な彼女にとって、あのように先の事を考えずに飛び出してしまうなんて後にも先にも無いことだろう。

そして彼女が家を出て、その他の者たちも動き始め、だんだんと運命は回り歯車が噛み合う。

運命に導かれ、ナイツ、ユジーヌ、オート家の者が一堂に集った。

それから後は、終わった後のことを考える心の余裕などないくらいに怒涛のような日々が過ぎた。

クヴェルの発掘、メガリスの探索、そしてタイクーンとの出会い。覇王の末裔を騙る者との戦い、エッグとの死闘…

遠い未来の事などを考えるよりもむしろ今の一瞬を生きる事の方がその中ではより重要な事のように思えたし、

彼女自身も、そして確証は無いけれどその仲間達もそのようにして今日までの日々を生き残ってきた。

そして、今戦いが終わって。

彼女はその終わりを「悪夢の終わり」と表現した。エッグの作り出した数々の悪夢を終わらせる事が出来た。

それだけで先を見ることなくがむしゃらに戦ってきたという事に意味を見出せた。

 

でもこれから先は?

これから先、私はどうしたらいい?

 

戦いが終わってからの僅かの間に、彼女の頭をふと掠めたのはそれであった。

勝利に酔うでもなく、ついに終わったと言う充実感でもなく。

彼女の心にはなんとも言えない空虚感のような、不安のようなもので満ちていった。

ジニーはワイドに帰る。ミーティアはテルムへ帰る。仲間達もまたそれぞれの道を歩みはじめるのだ。

グスタフともそんな中で、このまま終わっていってしまうのだろうか。

想いを形に出来ないまま、静かに胸を焦がしながらやがてくすぶり消えて行くのを待つのだろうか。

死の危険と隣り合わせの戦いの場に飛びこむ勇気は持ち合わせていても、好きな人にひとかけらの想いを伝える勇気はない。そんな自分が嫌だった。

 

きっと疲れているせいだわ。

 

戦いに終止符を打つ事が出来た、めでたい時に何故こんなにもふさぎ込まなければならないのか、

こんな風に思い悩んでしまうのも、疲れているせいにしてしまおう。

眠りに落ちて、明日の朝には晴れやかな気分で目覚める事が出来るかもしれない。

ジニーとミーティアの眠っている船室へ戻ろうとプルミエールが振り向いたところで、彼女はある人物が中へ向かう扉の前に立っている事に気がついた。

 

「グスタフ」

 

名前を呼ぶだけで脈が跳ね上がる、初めて恋をした少女のように。

 

グスタフは黙っていたが実を言えば彼は少し前からその場に立っていた。

月明かりの下で彼女があまりにも綺麗で儚げに見えて。しばらくの間彼女に見とれていた。

…といったら彼女は笑うだろうか、怒るだろうか。…黙ってしまうだろうか。

 

「こんな夜中にどうしたの?何か用があって?」

質問してから、問うた自分の方こそこんな夜更けに何をしているのだと少々ばつの悪い思いをする。

だがグスタフはそこまで気にしていないようだった。

「…テルムにつく前に君にどうしても伝えたい事があったんだが、なかなか声をかけられなくてな」

君があんまり綺麗だから、と出かけた言葉を飲みこんで、グスタフは言った。

そう、テルムにつく前に伝えておかなければ君はどこかへ行ってしまうかもしれない。

今君の手をしっかりと掴んでおかなければ。

 

「ずっと言えなかったけれど」

 

全てが終わったら、必ず伝えようと思っていた。

それまでは生き残る事に確証がない、君の気持ちを変に動揺させてしまうだけかもしれないと思ったから。

 

「俺は君が好きだ。出来る事なら、これからも一緒にいて欲しい」

 

突然の言葉。無口で不器用な彼が考えに考えて搾り出した言葉なのだろう。

彼女は答える代わりに数歩歩み寄って微笑み、そっと手を差し出した。

それが答え。グスタフは手を取るとそのまま彼女を抱き寄せた。

 

瞳を閉じる、そしてキス。

 

悪夢が終わり、静寂が訪れ…そしてそこからまた新しい道が始まる。

不安に満たされていた彼女の新しい道は、今ようやく開き始めた。

道を照らす月明かりと、愛する人の導きによって。

 


ヒヅキ的後日談、みたいな。

04/09/14

ネム様→リクエストありがとうございます。
いつもネム様のサイトのウェブ拍でストーカーみたいな文章送ってすみません…
GPはオトナな関係なのでなかなかうまく書けないのですが、いかがでしょうか??
尊敬するネム様にリクエスト頂けて幸せですvvこれからも宜しくお願い致します*

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