自分でも情けないくらい、惚れている。

 

Addicted To You

 

女々しい男だと笑われそうだが彼女には幼い頃からずうっと憧れていた。

意思の強そうなぱっちりとした鳶色の瞳、きゅっとあがった口角。

勝気でしっかりもので、優しさもしっかりともちあわせていて。

でも彼女は近くて遠い存在で、隣の家の彼女の部屋の窓をいつも見上げているだけだった。

 

憧れはいつしか恋へと。

 

彼女に見合う男になりたくて。彼女に認めて欲しくて。…強くなりたくて。

ソルジャーを目指したのも、ニブルヘイムで勝ち目が無くてもセフィロスと戦ったのも、みんな彼女のためだった。

再び出会ってからも彼女が傍にいると思えば、どんな時だって勇気を出す事が出来た。力を振り絞る事が出来た。

一分でも一秒でも長く彼女の笑顔を見ていたい。傍にいて笑ってくれるだけで。

俺のような男には彼女を幸せにする事など出来ないから。

 

 

 

「…君がそれほど自分を卑下する必要はないと思うのだが」

黒髪の青年、ヴィンセントはグラスを僅かに傾けて呟いた。

ことん、とコースターの上に戻されたグラスの中で氷が揺らぐ。

寡黙なこの青年はそれゆえに何かと誤解を受けやすいが、心の底には確かに繊細なほどの優しさを持ち合わせていた。

年齢が近い事もあり(実年齢は本当は親子ほど離れているのだが)彼はクラウドの良き友であり良き理解者でもあった。

カウンタで隣に腰掛けたクラウドは水滴のついたグラスを指でなぞり、呟いた。

「…いや、俺は確かにそんな程度の男なんだ、ヴィンセント。俺は彼女との…ソルジャーになるという約束を護れなかった。

しかも俺はザックスやエアリスを見殺しにして…今でものうのうと生きているんだ。そんな男が…彼女に触れる資格なんかあるわけない」

窓の外は細い雨が降り始めている。しとしとと、底から冷えていくような銀の雨。

彼は、クラウドは、自分の背負う十字架と言うものを必要以上に重く受け止めていた。それは彼の持つ優しさや弱さ故に。

「それでも彼女は…」

君を愛している、と言いかけてヴィンセントは口を噤んだ。

こういう事は自分が伝えるよりも当人同士で伝えるべきだ、お節介は無用だ。

一瞬開いた間に雨音が混ざる。ヴィンセントはこう続けた。

「それでも君を受け入れる。彼女はそういう女性だ」

ティファは優しい女性だから、それ以上に彼女はクラウドを愛しているから。

罪と向き合う事は確かに必要だ、けれどそれを重く受け止める余り大切な想いまで摘み取らないで欲しい。

無理やりに摘み取った想いは深く心に傷を残す、それをヴィンセント自身自ら経験して良く知っているから。

「…知っている。けれどだからといって甘えてはいけない気がする」

クラウドはそう言うとぐっとグラスに入っていた酒を一気に飲み干した。

コースターの上にことん、とグラスを戻すとグラスの中で氷が踊った。

「…時にクラウド。君らしくなく、ずいぶんと飲んでいるようだが?」

クラウドは酒に弱いわけではないだろうが、今日はペースが速かった。

普段は言葉を選ぶように悩みを話すクラウドが、心情を率直に吐露しているのはもしかしたら酒のせいかもしれない。

「そうか?…いや、そんな事は無いと思うが」

クラウドはそう答えたが、それからいくらも話さないうちにクラウドはカウンタで眠ってしまった。

珍しい事だ、彼がこんなに飲んだのはその迷い、葛藤の大きさゆえか。

外は雨、さてどうしたものかとヴィンセントが思案していると、ドアベルが揺れドアが開いた。

濡れた傘を閉じながら入ってきたのはティファ・ロックハートその人。

「ヴィンセント」

目が合うと彼女は甘やかな声で黒髪の青年の名を呼び、微笑んだ。

その手には彼女がさしてきたと思われる濡れた傘が一本、そして反対の手には紳士物の傘が2本。

「雨が降ってきたから、傘を届けに」

つやのある黒髪からは涼やかな雨の匂いがした。

「…クラウド?」

なかなか顔を上げないクラウドにティファが首を傾げる。

「彼は酔って眠ってしまったよ」

ヴィンセントの言葉にティファは呆れたように微笑む。

「仕方ないわね。…風邪引くわ」

そう言うと当たり前のように自分のショールをカウンタに伏せたクラウドにかけてやる。

ふわりとショールをかけながらクラウドを見つめるティファの瞳を見てヴィンセントは思った。

これだけの女性があんな眼差しを価値のない男に向けるはずがない。

シドやバレットだったら「あんな目で見てる女の気持ちに早く気づいてやれ」と平手の一発でも食らわせるに違いないが。

こんな風に焦がれるほど愛し、大切にする男に愛されて幸せにならない女性などいるものか。

 

いくら言い訳をしても捨てる事の出来ない自分の気持ちに早く気付くといい。

どうかこの不器用で優しい二人に幸多かれ、と。ヴィンセントは雨音を聴きながらそう思った。

 


クラウドはくどくど悩むところが実に人間味溢れていていいと思う

04/09/14

有木氏→リクエストありがとう*クラティ派だったなんて知らなかったよ。
あえてクラ→ティというリクだったので頑張ったけどどうでしょうか?
いつだったか「惚れられてる女の子」がいいと日記に書いてあったけど、リクはそのせい?笑
近々クラティではないけど惚れられてる女の子を書く予定があるのでそん時は宜しく…

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